太陽と金星 3
「なんでユートゥーに会いたがったの?」
車の中で、車窓を眺めるまつろわぬ星神に尋ねた。彼はわざと触手を蠢かして遊んでいたが、ふと静かになる。
「太陽の子の世界に帰れるか、相談したかったんだ」
「え!」
「オーバーリアクションだなぁ。オレはこの世界にとって用済みなんだよ」
「悲しい…」
「悲しい?!」その言葉を聞いた天津甕星と有屋が揃って驚愕した。
「何でちゅかぁ〜?辰美ちゃん、オレに情でも移っちゃったんでちゅかぁ?」
「だって悲しいじゃん!いなくなるなんて!」
「貴方ねえ。コイツは町を引っ掻き回してきた悪神なのよ?」
「私には何もしてこなかったし」
「はあ…よく分からないわ」
呆れ果てた秘書に、ゲラゲラと悪神は笑った。「サイコーだね!辰美ちゃんは!」
「そうだなー。忘れないでくれよ、違う世界に行っても」
ペンションのドアを叩くと、ゆっくりと鍵が開く音がした。
「待っていたわ」
ドアを開けると、彼女は出迎えてくれる──が、二人に紛れ込む天津甕星を露骨に嫌悪した。
「神威ある偉大な星。アポをとってからきなさい」
「いやぁー、オレぁ携帯電話持たない派なんでねぇ〜」
「気に入らない。何なのよ」
すると彼はヘラヘラしながらもしっかり扉を掴み、詰め寄った。
「町を出るから最後にお話でもどう?」
「…嘘じゃない?」
「うん」
「分かった。積もる話もあるでしょうから、上がりなさい」
敵意を隠さず歓迎すると別荘の奥へ行ってしまった。仲の悪さに辟易するが、天津甕星は気にしていない。
「あーあ。カッカカッカ、怒っちゃってさぁ」
「もうちょっと穏便な言動をしなさいよ…」
ヒヤヒヤしている有屋に同情する。別荘に入ると小綺麗に掃除され、春木専用のデスクもあった。
(緑さん大丈夫かなぁ)
「さあ、お茶でも飲みましょう」
「ジャア、遠慮なく!」
フォークを使わず鷲掴みにしてショートケーキを貪る天津甕星を、彼女はジロリと嫌悪した。
「やっぱ甘味ってのはいいなぁ!人間は罪なモンを作ったよ」
(ああ…私が餌付けしなければ)
アイスやお菓子、ジュースをあげていた記憶が甦る。彼は甘い食べ物に魅力されているらしい。
「テーブルマナーがなってないわね」
「野郎にマナーなんてイラネーだろうが」
「神霊たるもの紳士的でいて欲しいけれどね」
蛇のような長い舌で指についた生クリームを舐めとる様子に更に苛立っている。
「あまつ──」
「最高神。お前に話したい事がある」
甘味を堪能していたはずの悪神はいきなり神妙な顔で言った。
「…何?」
「オレはお前の唯一の肉親であり、唯一の敵対者だ」
彼らは黙り、睨み合った。しかしそれを先にやめた山の女神は呆れたと息を吐く。
「世迷言ばかり言ってないで、たまにはマトモな」
「本当だ」
「神霊に血縁関係があると信じているの?貴方だってだいたい、他の時空から来た侵略者じゃない。私はこの町で誕生した地球神よ」
「いいや」彼は否定し続けた。




