引導 1
「どうしたら、麗羅さんに会えるかな…」
「エベルム。アイツ、どこに行ったんだろ…」
「アタシはどうなっちゃうんだろ」
かき消そうとも尽きない悩みに悶々としていた。
「緑さんに──あーっ!今は緑さんに頼れる状況じゃないんだ!」
髪をワシャワシャと掻きむしって悩む。家もなくし、共に謎に突き進む人々への繋がりさえ無くしてしまった。
「きっと緑さん、もし大丈夫だったら私より落ち込んでるよね…」
「辰美さん、大丈夫。小林 緑はそんなにヤワじゃない」
どこからか声がする。女性の声だった。記憶にある限り、これまで顔を合わせたご近所さんの誰でもない、若い女性の声だ。
「緑をほっといて、エベルムを探すんだ」
「誰?どこにいるの?」
倒壊したアパートのどこからか、誰かが話しかけてきている。
「私はずっと辰美さんのそばにいた」
イヅナがひょろりとガスボンベの影から現れた。「イヅナ…?私に取り憑いた」
「そう、かつての置き土産」
「その声…」
聞いた事のあるものだった。冷静で表情一つ崩さない──小林 緑。
「緑さんがイヅナになっちゃった…」
「この時空の小林 緑は人のままだよ。私は辰美さんと事件を探った緑なんだ」
嬉しいような、虚しいような──複雑な気持ちに押しつぶされそうになる。辰美は無理やり笑みを作った。
「嬉しいよ。また会えたのが」
「…ええ」
「ねえ、こっちの緑さんは素っ気ないんだよ?悲しくない?」
「…有屋 鳥子に緑は、辰美さんに感情移入するなと依頼されている。その上、貴方には絶対、協力するが慈悲はかけないようにされているんだ。──神の約束事は普通では無い力が宿っている。神の力を目の当たりにしてきた辰美さんなら、理解できるでしょう」
「え!催眠術かけられてるの?」
「そんなものかな」
イヅナは赤い目を陰らせ、フワリと舞う。
「元の世界に戻れば、また緑さんと会える?」
「いいや、私は土石流災害で死んでしまった。元の世界に戻ったとしても…」
その言葉に悲しくなり、イヅナを抱きしめた。
「この世界にずっといてくれるよね?」
「…」
「お願い…」
人ならざる者の身を借りた彼女は何も言わない。
「ごめん。無理言って。さ!エベルムを探そう!」
空元気をふりしぼり、辰美は焼失したアパートを見やる。
「こんな事されてさ!許せないっしょ!」




