アトラック・シンシア・チー・ヌーの独白 2
そう考えた彼は前代を壊そうとする。愛情を自らに向けるように。
しかし夜の神は屈しない。怒り狂う彼に──もしこの身を食べるのなら、天津甕星をよろしくと言われさらに嫉妬する。
何故だ?あの厄介者をそこまで擁護する?
自らに向けられなかった"愛情"を、星神は…。
怒りが収まらぬチー・ヌーは夜の神に飽き足らず、天津甕星に手を出してしまった。
────夜の神の様子がおかしいのは、貴方を鬱陶しいと思っているから。
何度も不安にさせる言葉を囁く。干渉者の得意技だった。しかし天津甕星はどうでもいいと取り合わない。
苛立ち、越久夜町を出ようとも思った。だが、他に居場所は無い。ティエン・ゴウと呼ばれ、人・神食いである自分が受け入れられる土地は…なかった。
"存在を食らう"だけの干渉者であったら、どれだけよかっただろうか。自分は存在や記憶、人格まで食べてしまった。
途方に暮れ、いらついている夜の神が天津甕星に、次の最高神を頼むと言った。
喜ぶと思いきや彼の心にゆらぎが生まれたのをいち早く察知した。そこからはなし崩しに星神の精神が壊れていくのを、横目に見ながら不要な侵略者は現在の姿になる。…まつろわぬ星神の存在だけを奪ってしまったのだ。
少し恐怖を感じた。もしかしたら、自らもエベルムに許されてしまったら、ああなるのだろうか?
彼と自分は似て非なる干渉者だが、内面はそっくりだったのかもしれない。怖くなった。
──許されてしまえば、必ず自分もああなる。なら、許されないのを望む。
天津甕星が狂気に呑まれ、獰猛に神々を傷つける。その様子を前に夜の神は自らが喰われる事を願ったのだ。
何故かとチー・ヌーは問うた。前代は貴方に穢れ喰われて死ぬならば、彼に喰われたいと。
──末恐ろしいオンナだ。このオンナは!
じゃあ、喰われろ。と、干渉者は天津甕星を誘導した。
「わたくしは嫉妬心を堪えきれなかったのですが、天津甕星に手を出したのは公開していません。彼を、アノヒトはわたくしの幼さを見くびっていたと苛立っていました」
エベルムは言った。つぎは太陽神だ。この時空を壊したのは、お前なのだから。
「アノヒトはわたくしに、太陽神は天道 春木であると伝えてきたのです。それを聴きながらどこかで、許されなくてよかったと安堵しました。わたくしは歪んでいます。でも捨てられたくない、と気持ちが暴れてしかたないのです」
エベルムの命令通りに、春木を喰うのを決めた。しかし太陽神は強すぎて手を出せない。"月の子"が支配する世界において異物だから。
月の子の世界で生まれ育った干渉者が、太陽神へ憑依すれば自己崩壊すら危ぶまれる。ならば側近になり変わればいい。有屋 鳥子は悔しいが似た者同士だと思い、やめた。
倭文神を喰い、成り代わった。結局、"この時空も月は無くなってしまった"。
「それからわたくしはとことん悪い子になりました。その方が気が楽ですから」
チー・ヌーは半開きの窓から入り込む夏のうだる風に吹かれながら言う。
「エベルムは天道 春木を食べるためにわたくしをさらに利用しようとしたのです」
「ユートゥーの他に太陽神も食べようとしているなんて…」
贅沢者というか、傍若無人な人物だ。
「食神鬼は一度口にしたモノに異常な執着をみせますから。普通の事ですわ」
「へえ…」