呪い 1
フラリと外に出て、何となく歩いてみたくなった。現実から逃れたい気持ちで、頭を空っぽにして歩きたかったのだ。
「あっ…」
エベルムがアパートの一階の渡り廊下に寄りかかり、スマホをいじっていた。
「ねえ、何でいるのよ」
「なあ…あんたの目を貸してくれないか?」
「は?だったらそのスマホ貸してよ。あの日、ミームウイルスをばら蒔いたのはアンタなんでしょ?」
「何の事かね?」
白々しく彼ははぐらかした。その態度にさらに苛立ちがつもった。
「ユートゥーは来ない。町を壊しても、何をしても。アンタ何かに興味あるわけないじゃない!」
「…お前」
ハッと口を噤んだ。酷い事を言ってしまった。ごめん、と口にしようとした時だった。
エベルムがスマホを召喚し、差し出してきた。
「ほら、渡してやるよ。好きなだけ見ればいいさ。だがなぁ、責任とれよ」
「は?責任?」
「心中に付き合ってくれ!」
爪でプロパンガスの大型ボンベを切り裂き、ライターを着火させた。
爆音と熱が炸裂し、視界がめちゃくちゃになる。
「なんて事をするのよ!」
爆風でアパートが吹き飛んだ。ガス爆発というのは中心の方が無傷な場合がある。
辰美は辛うじて負傷は軽かった。吹き飛んだ木造建築は原型がないほど。
エベルムは大口を開けて笑ってみせた。
「ああ!お前は死ななかったな!良かったじゃないか!」
「大家さんは?!早く救急車を呼ばなきゃ!」
「坐視者のルールを忘れたのか?」
五、坐視者の存在の認識を広めてはならない──
「だからって爆発させるなんて!」
「だよなぁ?人間関係のルールさえ守れないやつにしちゃ、こんな行い信じられないよな?」
「…ヒドイ事言ったのは謝る。でもこれはないわ」
「救急車呼べ。俺に金輪際話しかけんじゃねえ」
どつかれ、よろめくも怒りは収まらなかった。
「バカ!バカバカバカっ!」
子供っぽい罵りしか頭が出力してくれない。
「うう〜」焦げ臭い空気を吸い込み、しゃがみこむ。涙があふれそうになり堪えるしかなかった。
「救急車呼ばなきゃ…」
混乱する思考の中で必死に携帯をポケットから取り出す。




