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情動 5

 彼女にはきちんと影があり、質感もある。


「あの時は邪魔が入って大変だった。太虚を形作る一つが出てくるとは」

 邪魔とは淡居という女性が─呪女(のろいめ)だった。

 ──私は予言をする者。貴方は罪を犯した。世界が壊れる。これ以上はやめなさい。


「あれから時空のコントロールが難しくなっちまってよ。困るよなぁ…そんな微妙な顔すんなよ。小林 緑、今日は最後にお前には話してやりたい事があって接触してきた」

 緑に、エベルムが静かに歩み寄った。




「俺はな、小林 緑の祖父だ」




「えっ?何を言っているんですか?」

「正確には小林 光路の成れの果てである天の犬の──存在を奪った、バケモノだ」

 断言するや、彼はある物を手にした。劣化し、ボロボロになったモノクルだった。


「あんた祖父が持っていた物だ。俺が盗んだ物じゃない。最初からこの個体が持っていたんだ」

「…そうですか。にわかには信じがたいですね」

 機械的な思考に感嘆する。普通なら情緒が崩れる所だ。


(緑さんにしては何か、おかしい…)


「まあねえ、普通はそうだろうよ。けどこのモノクルにはローマ字でこうろと刻まれている。奇跡だ。これが残っているのは。宇宙狩猟の猟犬群の猟犬…天の犬になると、仮に前身が人間だとすれば記憶や人格はリセットされる。彼らは総統を頂点となる理性のない獣になるのさ」


 彼は──ティエン・ゴウになる前の"エベルム(という名ではなかった)"は────宇宙狩猟の猟犬群の群れに属するただの猟犬だった。だが顧兎(こと・ユートゥー)に少なからず羨望を持っていた。

 顧兎を一目みた際に、この世の自由だと彼は確信した。


「俺はそこをつけ狙ったんだ」

 羨望を覚えた事により属性が干渉者に傾き出し、シェマを迫られた隙に─それを嗅ぎ付けた、同じ目的を持つ"ナニカ"に存在を奪われた。それよりも"ナニカ"はなんとしてでも顧兎に近づきたかった。

 "ナニカ"は彼女を食すのでなく、ただ単に顧兎と再会を果たしたかった。


「その"ナニカ"は俺の前身だ。とある出来事で肉体を失い、魂だけになってしまってね。そうして俺が生まれた」


 彼は生まれた。そしてあろう事か神霊を食べてしまった。

 事の始まりはとある時空で顧兎に近づくために月神を食べた事からだった。月の力が欲しかったからだ。自身が月になれば顧兎が来てくれると思った。

 味を覚えたエベルムは気づく─太陽神と月神がいる世界は完全な世界に近く、とてもおいしい。

 だから異常な執着を持っていた。

 けれどもしばらくして、宇宙の平和を乱したと、番神たちに狙われ─越久夜町へ逃げ込むしか無かった。加えて顧兎(こと)の気配もした。もし会えるのならそれでいい。


「はあ…玉兎(ぎょくと)とお友達なんですね」

「さすがは小林 緑。顧兎を知っているか」

「伝承では、ですが」


 彼は身を潜め、よくよく考えた。いかにして神々に見つからずに町に滞在できるか。月を食べやすくするために、何ができるか。顧兎に一層近づくために。

 数千年、越久夜町に入り込み、狙ったのは最高神の夜の神──月だった。

 しかし最高神に気づかれ、一時は撤退するも、そこで矛盾が生じているのにエベルムは気づく。


 ──越久夜町は呪われた時空ではなかったのか?

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