かこ 3
「オイオイ。ただの認知の歪みダロ?それだけじゃあ、人間を操れないだろーが」
「そのUMAを知る事によって、強制的に自殺に追い込む。自殺を行うのを止めてもいいが、これがかなり難しい状況にある。となれば変えやすいほうを変える。自殺には害がないと思ってしまう。認知的不協和は他者による肯定を必要とする。仲間内で自殺をさせる環境を作らせる…まあ、最初、どのような噂を流したかは分からないが、尾ひれ背びれがついて、事件にまでもなった。UMAが実体を持つにつれ、UMAをみるだけで自殺するようになったんだろうね」
さしずめ強制力のある不幸のメール。
「頭の良くない佳幸がそこまでできたのは、両親が似たような境遇に置かれていたからではないか、と私は考えているよ」
私も心理学は詳しくない。彼女はそう言う。
「警察の介入により、佐賀島 辰美の自殺には佳幸が関わっているのが露見した。そして噂を流した張本人だとも。佳幸は東京から逃げた。着の身着のまま、ヒッチハイクで山道までやってきた。死ぬためだった。死で償うために」
脳死状態になった辰美を"殺めた"のを知られ、なかば警察から、生半可な権力を有する辰美の家族から、世間から指名手配されてしまったのだ。
「UMAの力はすごいものだったよ。私も見ていた、まあ、実体はなかったがね。麗羅は呑気だったなぁ」
クスリと笑いをこぼし、竹虎を見た。
「あんたが麗羅を守りきれなかったせいで、こんな事態になっているのに。呑気なモンだよ」
「アア?オイラも戦ったんだぞ!」
獣の唸り声を上げ、木造の檻を殴った。
「ハハハ!子猫が鳴いてる」
「二人とも喧嘩しないでください。有屋さんに面会禁止にされちゃう」
「はいはい。佐賀島 辰美は死んだんだ。麗羅、早く目を覚ましてくれよ」
「…アタシは佐賀島 辰美だから」
あれから少しリネンの様子を観察したが、さして目立った発言はなく、帰る事にした。
建物の中とはうって変わり、外眩いばかりだ。
「光路さんたちの濡れ衣を、洗いざらい調べて欲しい」
辰美のお願いに有屋は呆れ半分でため息をついた。
「光路と奈木は罪を犯したのよ?それは覆せないわ」
越久夜町、蛭間野町、御厨底町──三町が合併していた市(今は御厨底町だという)にあった"新ヒルヨル開閉所"の停止と送電ケーブルが火災になり、都心で大規模な停電が発生した。そのため電力や主力機が破損した。
加えて"人工的な電磁波攻撃"によりさらに壊滅した。
「光路さんはもしかして」
──光路はミームを、必死に止めようとした?
「ミームはまだ電子情報だったのかも。停電を起こして、新種のUMAの進行を止めようとした!」
「…そうかも知れないわね」
「オイラたちも、携帯で拡散しようとしたがカメラに映らなかったぜ?」
竹虎が肩をすくめ、乾いた笑いで一蹴した。
「その時点ではまだ、やはり電子情報には頼れなかった。停電が起きたのを覚えている?」
「イイヤ?板橋区はなってなかった…カモ?そういや、ミームウイルスのパンデミックになった時、信号機が機能してなかったナ。魚子の電話回線も、繋がってなかったし」
彼ははたと思い出し、唖然とした。




