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かこ 2

 劣化し軋む廊下を歩き終わると、金庫室のような厳重な扉が現れた。ダイヤル式のロックを慎重に開けると、竹虎を見やる。


「開けてくれる?」

「おい。カミサマなんだから開けられんだろ?」

「この状況、どう見ても男手が足りないでしょ。私と辰美さんじゃあ、力が足りないわ」

「話聞いてますカー??」

 舌打ちし、軽々とした動作で重たい扉を引いていくと、座敷牢の部屋への通路が見えてきた。暗い陰鬱とした雰囲気に気後れする。


「一番奥にいるわよ」



「ゲ、まーだ生きてやがったのか。しぶてえなオマエは〜」

 座敷牢の中でリネンは本を読んでいた。

 リチャード・ブローティガン著の『西瓜糖の日々』──難しそうな幻想小説だった。辰美は薄暗い牢屋の中に差し込み、埃を反射する光を眺めていた。


「おイ、宇宙ゴキブリ。返事くらいしろよ」

「うるさいね。茶トラ猫。ミルクのお時間かい?」

「テメェな!」

「竹虎さん。堪えて!…リネンさん、意地悪しないでください」

「私はリネンさんじゃない」

「越久夜町ではリネンさんじゃない」

「改名したんだ。日本では、地球では馴染みのない名前だったからね。それと最初に人として暮らした体が"見車(ミシャ) スミルノフ"だったのさ」

「…じゃあ、今の体は」

「見水 佳幸(かこ)だ」


(えっ、じゃ、じゃあ、見水は?見水 衣舞は何なの?!)


「私の能力で佳幸は生きている」

 この体は確かに佳幸の物だが、今は死に近いという。だからリネンがいる。

「私が抜けたら死んでしまうだろう」


 失踪者の生死が不明になり七年間経てば満了になり、見水 佳幸は世間から捜索されなくなる。その間、越久夜町に身を隠すつもりだった。

 しかしダメだった。佳幸の精神が先に潰れてしまった。


「世でいう廃人になってしまったんだ」

「オメェが食い潰したんじゃねーのかよ」

「失礼だね。私は干渉者じゃないんだ。それに社会的死を経験をした者の感情を君たちは知らないだろう」

 社会的死──社会において存在が受容されない。──死んでいるも同然。佳幸は人間社会から抹殺された。


「何があったのよ…そんなの」

「因果応報だと、誰もが言うだろうね」

 小説本を畳み、彼女は僅かな小窓を見上げた。


「佳幸は高校三年生の時に佐賀島 辰美を陥れた。それがクラスでのいじめにまで発展し、傷つく辰美の様子を見て、さらに優越感に突き動かされ追い詰めたのさ。佐賀島 辰美は飛び降り自殺をしてしまった。──屋上から飛び降りた辰美を冷徹に見下ろし、去っていった…そう、最大の過ちを犯したのだよ」

 だが、それだけではなかったという。

「携帯から通話履歴を消す際、麗羅からもらった紙を見つけたんだ」

「それは、もしかして」

「麗羅が提案した新しいUMAのミームだった」


 好奇心。残虐な気持ち。破壊衝動。

 佳幸は人畜無害なUMAを、板橋区で流行らそうとしてみる事にした。


「記憶では人畜無害なUMAだったはずよ。不幸の手紙みたいな、ただの拡散型の」

「ああ、だが、佳幸は一つだけ危害を加えた。認知的不協和をご存知かな?」

「ううん」

 難しい単語に辰美は素直に答えた。

「怪しい宗教家や権力者がよく使うテクニックさ」

 自分の思考や行動に矛盾があるときに生じる不快感──それを利用する。

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