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終わりは始まり《辰美の分岐始点》 2

「アイツ…?」

 目の縁をこすり辰美は怪訝そうに、わずかに警戒した。


「ああ、お前に似たヤツさあ。」


 頭上から新たな声がして身構える。灰色の毛並みをした赤耳の犬が"腕を組んで"漂っていた。

「わ!?」

 犬は意地悪い笑みをたたえ、虹色の眼をさらに歪ませた。


「俺とも波長があうとはね。なあ、全知全能(地球)の神よ。」

「全知全能の神っ!?」

 麗羅(らいら)と名乗った女性はニコリとまた胡散臭く破顔してみせた。「今はライラだよん。私には今、体があり声があり存在がある。久しぶりにね。」


 (ええっ、全知全能の神と顔見知りなんてアリエナイんだけどっ)


 全知全能の神といえば、天地開闢(かいびゃく)のきっかけであり、全てを握る存在ではなかろうか?そんな者がなぜ、変哲もない女子大生に?


「お嬢さん。そろそろ舞台を設定してはくれないか?なんにもないと、俺らは飛んでっちまうぜ。」

 犬の容姿をしているが、形は人間だった。二足歩行をしている─犬人間。彼は声音も成人男性のものに類似している。三本の指や虹色の瞳とぎらぎらと燐光を放つ白目。見つめ続けてはいられない、不気味な双眸をしていた。

 彼らは光など浴びていないのに、暗闇に浮かび上がっていた。

「舞台ってなに??これは夢なの?」

「うん。夢であって夢でない。あなたは一度この場所に訪れたハズ。」

 チラリと以前、()()()を見た記憶が覗く。その際に出会った女性に同じような言葉を言われたような…。


「えっと、なんだろ。じゃあ、私の部屋でいいかな。」

「おいおい。ユメがないねえ。もっと楽しい場所にしてくれよ。」

 犬人間が文句を垂れた。

「じゃあ--」

 思い浮かんだのはいつかの遊園地だった。多忙な母と訪れた唯一の場所。都内でも有名でたまにメディアにも出ている。けれども、辰美の想像したその場には人っ子一人客は居らず遊園地はガラガラだった。

 物悲しい寂れた世界に、三人だけが存在している。


 メリーゴーランドの馬に腰掛けた犬人間は、うんと頷いた。

「イマドキの女の子は夢かわいいのが好きだな。」

「なつかしいや。私もココよく遊びに行った!」

(全知全能の神って遊園地行くんだ…?)

 かぼちゃの場所を触る麗羅。夕焼けに照らされたメリーゴーランドを、辰美は複雑な気持ちで見つめる。


「………。私の目は、なんなの?」

「干渉する者に、犯罪者に刻まれた刺青のようなものだ。この宇宙を、太虚を作った神々がお前に課した試練だとも言える。」

「は」

「その眼は、異質だ。地球の、数多の時空の物とは異なる--」

「ちょっと!待って。よくわかんないんだけど」

 もし起きていたら電波な内容に聴き逃していたかもしれない。辰美の待ったに麗羅は

「まず説明をしなきゃいけないね。」

 と、馬車から降りた。

「私たちのこの世界とはべつの、似た世界がある。その世界はたくさんあって、離れていくほどに内容が異なる。パラレルワールド、って聞いたことあるでしょ。」

「うん、なんとなく」

 漫画や映画などで題材にされる単語だ、と辰美はぼんやり認識している。

「それが軒並み破壊されているの。それも地球の。」

「パラレルワールドって破壊できるものなんだ?」

 色々ツッコミどころがある話に戸惑う。が、彼らはふざけているわけではなさそうだ。


「アナタに似た何かによって、破壊されている。」


「わ、私?!」

「厳密にはとても似ているだけであって、内容は違うがね。干渉者というんだ、お嬢さん。」

「干渉者になったアナタが、地球の数多の時空を破壊している。このままではアナタがいる世界も影響を受け、破壊されてしまう。それを防いで欲しい。」


 メリーゴーランドの上空をカラスの大群が通り過ぎていった。不穏な空気に辰美は固唾を呑む。

「そ…そんなこと」

「その眼はその為に授けられたんだ。境界線を異界と現世を繋ぐ、ミーディアムの力を持つチート級のアイテムさ。」

 鋭い指先が目玉を指した。


「その力を使って、アナタの時空をハッピーエンドにして欲しい。アナタに似た干渉者の影響とはべつに、これから時空をゆらがせる出来事が起きるから-」

 麗羅は死者の顏で笑ってみせた。色の薄い唇を歪ませて、彼女は何かをくちばしる。


 その言葉は聞けずじまいだった。辰美の耳に、現実の音が届いたからだ。

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