太陽の世界 1
邪悪なる者は"ゆらぎ"を使うという。彼らは世界を構成するカオスの一部を利用して移動し、または滞在する。
干渉者だけではない。未知の存在たちがひしめき合っているのだそうだ。
邪悪とされた者たちが使う、ゆらぎの世界。干渉者の能力を使い、辰美も訪れた。 視線がした。たくさんの視線が好奇の目で見つめてくる。だが、やがて新入りの存在に慣れたのか。
気にも止められなくなり、平穏な空気が流れている。無だ。カオスであるはずなのに、何も無い。それ故に辰美は専ら仮眠室として使っている。思考停止しながらの、安らぎの空白の時間。
そこでなら危害を加えられる事もない──はずだった。
「辰美ちゃ〜ん、辰美ちゃ〜ん」
眠っていると知らない人物から名前を呼ばれる。誰だろうと瞼を開けると、大きな翼を携えた少年がやってきた。天使にしては異形で、人ならざる者としては人らしい。辰美に満面の笑みを向けてきた。
アラビアンな──ラクス・シャルキーの美しいベラを着飾った彼はジャラリと装飾を揺らした。
「ぎゃあ!だれ?!」
「ボクの名前はイツッヤカハラ・アアハマワラタシー。太陽の子の衛星眷属を務めてまぁす」
「太陽の子って事は、違う宇宙から来たの?!」
「わぁ!よく勉強してるね!」
「あ、はい…」
「ねえねえ!辰美ちゃん!」
衛星眷属のイツッヤカハラはとても無邪気な口調で言う。
「エベルムを渡して欲しいなぁ?あれを飼えばおもしろい事になるしぃ」
「面白いって」
「だってぇ、なかなかあんな奴いないじゃん。混ざり物でもね」
「混ざり物…アイツの正体を知ってるの?」
「知らないんだぁ。じゃー、おしえてあげない!」
わざとらしいぶりっ子ポーズで茶化され内心ムッとする。
「ユートゥー・ノーモースター・スアヲルシィを燃やしたのはお前か」
月世弥が警戒心をむき出しにして出現した。
「ユートゥーを知っているんだぁ。ボクもユートゥーだーいすき!」
輝かしい笑みに気圧される。彼は出会ってからずっと笑顔のままだ。
「は、はぁ、お慕いしてるんですね…」
「まさかぁ!焼き殺したらすんごい悲鳴あげそうでしょ?」
「ゥヒィッ!」
「辰美ちゃんも面白そォ〜好き♡」
ずいっと近寄られ、彼はこちらを見つめる。笑う。口の中は何も無かった。頬にある一つの目から視線がする。
「あれぇ?キミさぁ、月の子にすっごく似てるねぇ。まさか親戚?」
「へ、ま、まさか!私に親戚いないし!」
「ふーん。あ、ボク帰るね!別にお返しはいらないから〜!あ、エベルムのは考えといてよぉ」
翼を羽ばたかせ"空"を飛んでいった。緊張感のある人だった。笑顔はまるで仮面をつけているようで、一ミリたりとも微動だにしていなかったのだ。
普通じゃない。




