ポスト・アポカリプスと宇宙猟犬 3
「何を言うか!勝手に人類どもは絶滅した、我々は介入していない。だがこの土地は我らが占拠した、ただちに去れ」
何故この場を支配しているのかの経緯も何を知っているのかも、こちら側には話さないつもりのようだ。彼は威嚇を解かないまま、こちらを見下している。
威圧感に縮こまるしかなかった。
「わ、私には坐視者の知り合いがいるの!」
無様に命乞いをすると、あろう事かアレテーはさらに牙を剥いてしまった。
「我々は坐視者ではない!勝手に組み込まれているだけだ!」
「ヒイッ!ごめんなさい!」
「…。その知り合いは誰だ?言え」
「エベルム!!知ってるでしょっ!天の犬だったはずよ!」
「エベルム…だと?」
警戒態勢で鼻にシワを寄せていたが、エベルムの名を聞いた途端、虹色の目を見開きやがて総統はウウムと唸った。
「あヤツにそそのかされたのか?」
「あ、あのう」
「ソヤツはアルバエナワラ エベルムという名だろう?」
「はい…」
「宇宙語で"アルバエナワラ エベルム"と呼ばれ、指名手配されているバケモノだろう?」
(指名手配?!)
越久夜町においてエベルムはそのような事を一言も話していなかった。確かに逃げ込んだとは口にしていたが。
「…やはりそうでしたか」
一部始終を傍観していたチー・ヌーが静かに言った。
「奴の通り名──アルバエナワラ エベルムは光を覆い、神を喰らうバケモノという意味だ。知らなかったのか?」
「はい…」
「そうか。ふむ。アヤツ、まだ生きていたのか。そうしてまだヒトを騙しているか。小癪な…」
「まだ、って事は…」
「小娘。アヤツを殺せ。さもなくばまた地球は滅びる」
「こ、ころすって、できませんよ!」
「──なれば我らが始末する」
獣特有の大きな口を釣り上げて、彼は邪悪に笑う。どう見ても善良な存在には見えなかった。
「礼を言うぞ、人間もどき。同胞らも喜んでおるわ」
「え!」
数多の視線に気づき、周囲に目をやるとたくさんの犬たちが瓦礫の上に立ち、こちらを睥睨していた。皆、白銀の毛並みを持ち、燃えるような緋色の尾が警戒を示している。
「あ、あー…帰ります」
辰美は慌てて瓦礫をつたいながら金網に向かう。猟犬らはそれを逃がすまいと目で追う。緊張が走った。
もし失態を冒したらズタズタに切り裂かれるだろう。
チー・ヌーも辰美の肩に乗りつつも、猟犬らを警戒した視線で牽制している。
「こ、怖かった…宇宙狩猟の猟犬群て、あんな野蛮だったの…」
「野蛮っていうか、犬なんだからあんなモンでしょ」




