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約束 2

 ──良い褒美をやるから。


 ──坐視者(そぞろみるもの)は何でも見通せる、またはその通りにできる。もしもだ、アンタが望ましい結末を俺は用意できるってワケだ。


「ユートゥーに会いたいの?」

「ああ、あたりめーだろ。どけ」

 問いかけを拒絶し、その場を去ろうとするが、ふと振り返った。

「俺の望む結末にしろよ」

「…どういう結末にしたいのよ」

 虹色の双眼に怪しい光が宿る。正気ではない感情に辰美は怯えた。


「町を壊すんだ。跡形もなくな」

「は?ハッピーエンドと程遠くない?それ」

「ユートゥーを呼び寄せるんだ。せれで…皆まで言わない、テメエの頭で考えな」

 そう言うや否や町の景色に溶け込み、彼はいなくなる。


「…はぁ?どうしろってんのよ」

 頭が理解を拒否している。簡単だ。ユートゥーと会いたい、それだけなのだ。

 しかしそれに何故。越久夜町が犠牲にならなければならないのだろうか?


(私の中で越久夜町は…)

 気がつけば、この町が拠り所になっていた。東京の実家も、家族も偽の記憶だった。今こうしてリアルに生きているのは、辺境の町──越久夜町だけだった。

(この町になんて、興味も愛着もなかった。ただ都会から逃げてきただけの、隠れ蓑でしか無かった)

 作られた設定でも、自分自身にはそうだった。

(越久夜町しか居場所はなかったんだ)


「あいつ、いよいよ余裕がなくなってきたね。正体現しやがった」

 降ってわいた月世弥が心底楽しそうに言う。

「月世弥、居たんだ」

「ずっと居るさ。タツミが"見て"いないだけでね」

「出現していない時も私の傍にいるんだ?中にいるんじゃなくて?」

 哲学的な言い草に首を傾げるも、巫女は無知だとせせら笑うだけだった。


 コンビニエンスストアへ向かいながらも彼女らの話を聞く。他愛ない会話。

 脳裏に見水がよぎり、心苦しくなり俯いた。


「なあ、知ってる?越久夜町の時空に関する言い伝えを」

「何?」


 ──高確率で月の神か太陽神がいない時空があったという。その地は理が壊れ、呪われている──他の時空の神々の間でまことしやかに囁かれていた。


「それはエベルムから聞いたよ。神さまたちが今まで何もしなかったのも驚きだけどね」

「はあ、神っていうのはあくまで天地を支配する不思議な力を有する摩訶不思議な者であって、"特別な存在"じゃない。"者"であり、食欲、性欲、所有欲、名誉欲をもち、人類との約束を守る。それだけだ」

「ふーん。何もできなかったってわけ?」

「ああ、神でさえ()()には勝てないんだよ。それゆえに越久夜町は嫌われていた。加えてエベルムもいるしな」

 エベルムは一体、神々の間で何をしたのだろう?…大体予想はつく。ユートゥーを呼び寄せようとしたに違いない。


「ええ、神霊は人類の自然や社会の秩序を乱す行為や不潔、血、死などのけがれが大の苦手なのです。時空はそれを平然とやってのける。それに越久夜町はカオスに一番近いのですわよ」

 二人に説明され、必死に頭を動かすもあまり理解が追いつかなかった。


「人間も似たようなものです。カオスな事柄に弱く、(おのの)く。わたくしらのようなカオスにひどく恐怖を覚え、敵意を持ちますから」

 エベルムはそのカオスである時空にやってきた。人・神食い─ティエン・ゴウがいるという噂を頼りに、チー・ヌーも連れてきた。

 た。

「わたくしはエベルムを同類とみなし、お慕い申しておりました」

 彼には干渉者としての能力が備わっている。とても便利な能力──"アトラック"を越久夜町に誘導した。

 月神を喰うにはチー・ヌーをスカウトしないといけない、と。エベルムから月神を弱らせて欲しい、と誘導されたのだ。


「この時空は宇宙創成の神が遊んでいるパラレルワールドの一つ。アノヒトはそう言っておりました」

(私にも言っていたような)


 宇宙創成の神が遊んでいるパラレルワールド──何だか諦め気味の、投げやりな言葉に思えた。どうせ遊ばれているのだから、何をやったっていい。

 そうなのだろうか?

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