九月の初めは 2
──花火大会しよう!
あの笑顔を忘れられない。まるで己が消えるのを悟っていたかのようだ。
分かっていたのだろうか?こうなる事が。
(ひどいよ、あんな思い出作って…!)
「見水ー?どこ?どこいったのよ!」
見水家があった場所には荒れ果てた廃屋があった。
表札には『羽良』と書かれており、全く知らない苗字である。見水は初対面から……。
(あれ、いつから見水だって、認識したんだっけ?)
「あら、この家になんか用?」
近所のおばさんが出てきて、不審がっている。必死に気持ちを切り替え作り笑いをした。
「あ、えっと、道に迷ってしまって!そしたら」
「ああ、そうだったのねえ。この家の親戚かと思ったわ」
「はあ…」
「羽良さん、都会から引っ越してきたんだけどね。借金返済できなくてお父さんが夜逃げしてねえ。お母さんが一家心中しちゃって…それきり親戚の人もこないし、解体もできないのよねー」
田舎の情報収集とはすごいものだ。おばさんは洋風建築の一戸建てを眺めた。
「かわいいお姉さんと妹さんがいて、仲良さそうな家族だったんだけれど…」
「そ、そんな…そんな」
「確か、かなり前よ。事件があったのよ、ほら、この町に死体遺棄があって。そのあと」
「え、え…」
明朱がいなくなった時に、死体遺棄事件があった。見水と緑で探し当てた──最初の時空で。
(まさか…私と話していたのは、この家の)
「あ、鍋が!じゃあ!」
おばさんは焦げ臭さに気づき、慌てふためき家に帰っていった。辰美はヘナヘナと地面に座り込んだ。
史実ではあのまま状況は改善せずに"羽良さん"は死んでしまったのか。
(…私が見ていたのは誰だったの?明朱ちゃんは?お母さんは?)
古びた戸建てはツタが絡み合い、見る影もない。庭は雑草が生い茂り、物干し竿には色あせた布が下がっていた。
見水 衣舞が居た。
確かに、居たのだ。
夕暮れになり歩き疲れ、『小林骨董店』でぐったりしていた。もう動けない。何も考えられない。
「いませんでしたか…」
「うん。いなかった…最初からいなかったみたいに」
項垂れたまま力無く口にした。彼女は最初から越久夜町にはいなかった。
「嫌だよ…いなくならないでよ…」
「…探すのです。痕跡を。僅かでもいいから、衣舞さんがいた証拠を」
頑な、どこかいじけたようにも聞こえる言葉。それは祖父である光路へ向けた感情の蒸し返しかもしれない。
辰美は理解した。(ああ、こんな気持ちだったなんて)
「緑さん…ありがとう。私も、見水を探すよ。諦めたくない」
「ええ」
無表情な顔や声でも、彼女なりに励まそうとしていたようだ。