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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
289/349

九月へ続いていく

 八月が終わった。"九月の"朝だった。


「起きて〜?辰美さん、朝ごはんのお時間ですのよ」

 軽めの往復ビンタというモーニングコールで無理やり起こされ、辰美は目を覚ました。


「シンシアさん…毎朝起こさなくていいからぁ。緑さん家に行く日は決まってんの〜」

 傍らにいた月世弥がはぁ、と溜息をついた。

「やかましい。早く捨ててくるか何とかしてくれ」

「月世弥さん、あなたこそ文句ばかり言うのなら出ていってみては?」

「あー!小賢しい」


 話し相手ができてよかった、と辰美は内心思っている。チー・ヌーはあれからうって変わり、懐いた猫のように擦り寄ってくる。

 常日頃、何かと出現してはぺちゃくちゃと話している。最初の肩透かしな態度は、まるでひとりぼっちでひねくれていた子供みたいだ。

 月世弥は飽き飽きしただの、鬱陶しいだの文句ばかりをたらしている。


 寝ぼけながら布団から出るや、カレンダーを確かめた。『九月』と書かれたカレンダーをめくれば十月がある。

(良かった〜)

 毎朝の日課になりつつあるそれに、辰美は自嘲する。


 些細な変化に安堵して、洗面所に向かう。吸収したチー・ヌーの銀髪が影響して、自らも銀髪になってしまった。

 白銀の髪になってしまったのを指で絡めながら、ぼんやりと鏡を見る。

「やっぱりちょっとカッコつけてるみたいで恥ずかしいや…」

「バンドマンみたいでかっこいいよ〜!」と、見水の目の煌めきようを思い出しながらも、歯を磨く。


「金髪に染めてる人もそうそういなかったから、今更じゃないか?」

「ぐっ。はいはい、そ〜ですね」

 あくびをする月世弥を意外そうに眺めつつ、朝ごはんの食パンに手を出そうとした。


 誰かがドアをノックした。大家さんだろうか?

「はーい!」

「辰美〜、おはよう」

「見水?なんで今?どしたの?」


 玄関のドアを開けた瞬間に、見水が優しく抱擁してくる。あまりの出来事に固まってしまった。

「何もしてあげられないけど、何があっても辰美の味方だから」


「み、みみ、見水…?!」

「私が居なくなったとしても、味方であった事を忘れないで」

「え?!え、な、な?!引越しするの?!」

 遺言のような言い草に辰美は思わず引き剥がしてしまった。

「あ〜…虫の知らせというか、嫌な予感がしてさ。私が居なくなったら辰美、寂しいかなーって」

「やめてよーっ!縁起でもない!見水はまだ生きてるでしょ!!」

「そうですよ。見水さん。縁起でもない」

 階段を登ってきたのはイヅナ使いの緑だった。

「九月になったので、来てみました」

「そうそう!私も」

「そうだったの?!ビックリさせないでよっ!」

 ドキドキと音を立てている心臓をなだめすかし、深呼吸をする。


 正確には八月三十三日があったのだが、やっと九月一日になったのだ。八月を二回過ごした人たちはこぞって確かめに来たらしい。

 九月といえど夏は続いている。緑と二人で談笑していると、辰美はふと裏寂しくなった。


「秋になったらさ。私たち、いつもみたい一緒に居られるかな」

「…」

「私が人間じゃなくなっても」

「ええ。辰美さんは辰美さんですよ」

「ありがとう…あのさ」


 ハラリ、と古びた週刊誌から一枚、千切られたページが緑の腕から落ちた。


(あ…)

 緑は気づいていない。



『見水 佳幸(かこ)

 見水 衣舞(いま)の顔が白黒で載っている。佐賀島 辰美を間接的に殺した──

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