スナッチャー 7
「ならば教えてあげます。あの娘がなぜ、最高神の側にいたのかを」
──山の女神は、ひとりぼっちだ。
なのにこの世界において独りであるのを知らない。
哀れだと、倭文神は憫笑した。
このオンナが、自分と同じように独りだと知ったらどうなるのだろう?
哀れみと興味にかられ、チー・ヌーは倭文神として山の女神に付き添う事にした。倭文神もそれを了承した。二人で観察する事にしたのだ。
アノヒトの命令を忘れた訳では無い、ただ初めて抱く感情だった。結末が来たら、自分も何を思うだろう?
「あの娘は憫笑し、憐憫していたのです。山の女神はひとりぼっちだと知らずにえばり散らし、町を支配した気になっている」
咄嗟に光の盾を繰り出し、鋭利な針を防ぐが肩に刺さってしまう。赤い血が滴る。
「チッ」
「まあ、わたくしは何度も山の女神を殺しているのですけれども。本当につまらない。あなたは何も知らないのです。何もかも」
「私の周りには、私以外誰もいなかったのね」
春木はかすれた声を吐きまぶたを閉じて、項垂れた。
「春木さん…」
辰美は腕を振り払い、駆け寄り、肩の傷を抑えた。指から温かな血が溢れ出る。間に合わない。
「平気よ…まだ戦える。これまで、私は…。…。…辰美さん、この時空を頼んだわ。貴方に神格を与えるから次の最高神を見つけて」
「いや…いやだよ。──負ける、時空は壊れる…エベルム。どうすれば──私っ、また…見水や緑さんを失うのはやだよっ!」
立ちはだかる干渉者に勝てず、打ちのめされそうになる。その際、視界が暗転した。
麗羅に似た人影が何かをブツブツと呟いている。
──今回もダメかな。ああ、またやり直しか。嫌だなあ。めんどくさいなぁ。
そう言われ、恐怖を覚える。この女性はいとも簡単に己を消せる。
「おっせーよ」
聞き慣れた声音に現実に引き戻された。白銀の毛並みをなびかせた、ボルゾイ犬に似た二足歩行の生き物。アルバエナワラ エベルムだった。
「さあ、俺が望む通りの結末を受け入れろ」
虹色の瞳が怪しく光る。奴は予定通りに事を進めに来たのだ。
「分かった。受け入れてやる」
「俺が受けて立つ。腰抜け共めが」
(頼んだわよ)
(ハッ、もちろん。俺の独壇場だ)
エベルムは悠々と歩いていく。「戦おうじゃないか」
「来るのが遅いのでは?二人ともお陀仏になるところでしたよ?」
「うるせえ。よお、負けたら時空を去る。俺か、お前か。それがフェアだろ?」
「分かりましたわ。紳士らしく、殺し合いは避けましょう。何を基準に負けと判定しますか?」
条件を飲み、エベルムとチー・ヌーが戦う事になる。
これも想定内なのだろう。彼は提案した。
「無様に命乞いをしたら、にしようぜ」
「ええ、スリルがありますね」
二人は向かい合うと、殺気立った。宇宙人同士の戦いに固唾を呑むしかない。




