スナッチャー 6
「アイツ、バックレないといいけど…」
約束通り──荒れ野にやってきたのは倭文神だった。
彼女は童子の姿ではなく、古代の織り女が着る装束を身にまとい、恭しく頭を下げた。敬意を表したその仕草に彼女は動揺した。
「倭文神…?どうして貴方が…」
「山の女神よ。私はこれより、時空を破壊します」
味方として同行してきた少女が山の女神の時空を破壊すると宣言する。
「貴方が干渉者だったのね」
「いいえ、私は干渉者ではありません。ただのカモフラージュです」
「ふざけないで」
山の女神はわずかに怒り、手のひらから鉾を召喚し地面に突き立てる。重々しい長柄武器を構成する金属により衝撃波が生まれ、土埃と地鳴り、地の瓦礫が宙に舞った。
「…あの野郎。倭文神を食べたのね」
瓦礫に眩い光が纏わりつき、新たな鉾として創造される。鋭い戦闘用の鉾は倭文神へ切っ先を向けた。
「馬鹿な人」
何千となった先端が倭文神に突撃する。──けれども、倭文神の容姿が瞬時にあのギリシャ風の衣服をまとった美麗な少年に変化し──
「わたくしに最高神如きが盾つけるはずないでしょう?」
格好つけた手つきで指を鳴らすと、ピアノ線に似た白い糸が発現し、編まれ、何層もの壁となる。切り裂くはずの鉾は折れ、元の瓦礫に戻ってしまった。パラパラと土が空を舞い、視界を濁す。
「さあ、決着を付けましょうか?」
「ええ」
女神は特大の神鏡を召喚するや首に下げていた勾玉を噛み砕いた。散らばる破片が眩い光に変換され、鋭い棘となる。回転する神鏡の中央に集まり、光線となってチー・ヌーへ突進した。
熱線に草木が燃え尽き、辰美も咄嗟に目を瞑る。
熱さが引くと、荒れ野は焼け野原と化していた。
「もしかして必殺技でしたか?痛くも痒くもありませんでしたが」
無傷の干渉者は熱い地面に降り立った。焦げも焼けもしない足は鮮麗さを保っている。
「さすがは侵略者ね」
残りの鉾の分身が投擲され、チー・ヌーは再び光に焼かれる。しかし身体の輪郭が揺らいだかと思えば、姿が消えた。
瞬間移動していたのだ。
「干渉者に物理攻撃は効きませんのよ」
背後を取られた春木は、少年のか弱い足に蹴られた。地面に伏した最高神を満足気に見やると、傍観しているこちらに視線をよこした。
「さあ、時空を壊しましょう!」
「やめてよ!」
辰美はいても立ってもいられなくなり、有屋に阻止される。
無様に倒れた春木は折れた鉾を放り捨て、少量の血を吐き捨てた。
「倭文神、なぜ私を騙していた…」
「倭文神?いいえ、わたくしはアトラック・シンシア・チー・ヌー。哀れな干渉者」
血に染まった布が鉱化し、干渉者は尖った矛先を最高神に向けた。
「お前に聞いているんじゃない。倭文神に聞いてんだよ」
「命乞いしてみせなさい」
「倭文神!何でだよっ!」
常日頃のお上品な口調をかなぐり捨て、彼女は問うた。




