スナッチャー 3
「越久夜町でよー、綻びを探すンだろ?どうやってやんだよ」
「順を追って話すわ」
「え?え?綻び?」
「ああ、元の世界に戻るためにこの世界にあるっつーバグを探して、そこから佐賀島 辰美を探し出すんだヨ」
元の世界に戻そうと彼らは躍起になっているのか。知らない間に計画は進んでいたようだ。
「佐賀島 辰美が作り出した世界だもの。絶対にたどり着けるわ」
「…そっか」
「貴方が麗羅に戻れたら、と皆願っているのよ」
車を運転しながら彼女は言う。
「またあの時みたいにバカをしてたいもの」
「えっ、…有屋さん…」
事務所と言って連れていかれた建物は廃屋なのではないかと疑うくらいに寂れていた。コンクリートが目立つ二階建てだ。元は小さな店舗だったのか、はたまた個人所有の家か…。
雑草に埋もれそうな事務所はひどく傷んでいた。
「中はリノベーションしたから」
「はぁ…」
「あー、腹減った」
竹虎がズカズカと入っていく。それに続いて、部屋に入ると酒やおつまみがテーブルに置かれていた。
「おお!サンキュー」
「言って置くけど飲むために集まった訳じゃないんだから」
「いいじゃん。折角現世に来たんだ、酒くらい飲ませろよな」
図体の大きな魚子も入り、部屋はぎゅうぎゅうになる。
「シカシヨ。チー・ヌーによって町が壊されたら、またバラバラになるゼ。それはごめんだ」
「ええ、しかし干渉者に勝てるほどの力を地球の神霊は持ち得ていないのよ」
「エベルムさんが何とかしてくれるんじゃ…」
「あの犬はクソだぞ」
吐き捨てると早くもビールを飲み干した。
「アイツも一応は坐視者だ。味方にも敵にもならん気ダゼ。まあ、敵になったら地球の生命体では歯が立たねェが、相手が悪い」
「他に宇宙人いないのかな?」
宇宙人が居ると越久夜町に来てから知った。誰が宇宙から来たのかさえ、辰美は分からない。
「…天津甕星、見てるなら出てきなさい」
「地球防衛隊のご活躍、拝見したかったのによう」
ステルスを解いて出現したのは、成人男性の姿をした天津甕星だった。裂けたような目を半月に歪め、彼は触手をざわめかせる。
「彼が宇宙人よ」
「うわぉ、度肝を抜かれるエイリアンだぜ」
天井に蜘蛛の如く張り付いていたエイリアンに、二人は驚いた。
「貴方も協力してくれるのよね?」
「あ?なんで?オレは見てるだけだよ」
「協力したらこのビールあげるわ」
「…チー・ヌーはエベルムと組んでる。それくらいしか言えねぇよ」
天津甕星がさらに触手を蠢かせながら言った。触手たちはおつまみが欲しいのか、テーブルに引き寄せられている。
(ビールで釣れるんだ…)
「そもそもペナルティで干渉不可なんでねえ」
「法の目をかいくぐるの、いい?ペナルティは干渉はダメでも接触はOKなはず。エベルムに触れるの」
「おいおい」
呆れた様子で彼は古びた絨毯に着地した。
「この町の天津甕星、神威ある偉大な星には確か、魂や精神を食べる能力があったはずよ。それを使ってチー・ヌーを弱体化させればいい」
「名案ダナ」
「それから詳しく考えましょう。今は綻びを探す」
辰美はちびちびとサイダーを飲みながら、傍受していた。彼らの親しみと歴史は自分とは程遠い。
辰美は麗羅ではないのだと、痛く感じた。




