スナッチャー 2
越久夜町にいる太陽神は天道 春木だけなのではないのだろうか。山の女神だから、山神なのかもしれないが。辰美は不思議と彼女は太陽神なのだと確信していた。
いや、それは現在の話である。山の女神─春木が誕生するより前に太陽神が居たのかもしれぬ。
いきなり備え付けの固定電話が鳴り響き、我に返る。瞳から垂れたカオスはなく、白昼夢でも見ていたのか?
受話器を取ると大家さんが郵便受けを見てきて欲しいと頼んできた。
何か居るみたいだから、それに辰美の知り合いではないかと。
どんな印象を持って自分と接しているのか──大家さんの無茶ぶりにため息をつきつつも、階段をおりた。
「ヒイッ!」
誰かが一階にいる。しかも何やら漁っていた。強盗かもしれない。
ひっそりと気配を消しながら近づいてみると、拍子抜けした。
「あ、どうして郵便受けあけてるんですか?!」
有屋が一階の入口付近にある郵便受けを勝手に物色していた。知己でなければ通報していただろう。
「貴方…郵便受けくらいは掃除しなさいよ。水道屋のマグネットだらけじゃない」
「めんどくさくて放置してました…」
マグネットの束を渡され、困惑していると彼女は言う。
「辰美さん、竹虎と待ち合わせしているからついてきなさい」
「そ、そのために来たんですか?」
「もちろん。そしたら郵便受けが汚いのが気になってしまって…」
几帳面なのか、無自覚な嫌がらせか。辰美は仕方なくついていく。拒絶した所で強制連行されるのだから。
車に乗り、いつものコンビニエンスストアについた。すると竹虎がタバコを吹かし、座り込んでいた。
ヤンキー座りと言うべきか、かったるそうにワンカップとタバコをお共に待ちぼうけしている。店員が怖がって店内でソワソワしているのも遠くで見えた。
「竹虎、待ち合わせがコンビニってどういう事?学生じゃないのよ」
「いーじゃん」
「なあ、見車の奴に会わせてくれよ。一発ぶちかましてやりてぇんだ」
「来家 リネン──見車 スミルノフに対しては、誰にしても面会謝絶なの。完全に軟禁するつもりよ」
「ご飯とかあげてるんですよね?」
餓死させそうな勢いだった。
「あげるわよ。監禁じゃないんだから」
あのリネンが独房にいるイメージがわかないが、大人しくしているんだろう。
「有屋さぁん…」
するとどこからか女性のか細い声がして、三人は辺りを見回した。
「気づいているんですよねぇ…」
また女性のか細い声がして、三人は再び辺りを確認する。
「ンだ?」
「──くま?!な、デカすぎじゃない?!」
真夏に揺らめく蜃気楼からいきなり現れた特大のグリズリーに有屋は恐怖におののいた。
「辰美さん!店員に救助を求めて!」
「え、はい」
「──魚子!生きてタノカ!」
混乱する二人に対して竹虎がパッと明るい顔になった。
「竹虎さんこそ!」
「あなた…魚子なの?どうしたのよ!クマになって」
「有屋さん、お久しぶりです。私です!嘉祥 魚子です!良かったあ…生き残れて」
「ああ…私は、まあ、生きてるに等しいわね」
「これからもよろしくお願いします」
大きな体を起こし、魚子はお辞儀してみせた。サーカスにいそうで可愛らしいな、と改めて思った。
「魚子、オマエ、獣人族だったのかヨ」
「はい。父方がそうだったみたいです」
「でかくなったなァ!」
そんなこんなで四人で事務所に向かう事になる。魚子は車の上に乗ると譲らなかったので、有屋はヒヤヒヤしていた。が、人ならざる者のおかげで車体にダメージはなかった。
「今日集まったのは、ハンター連合としての極秘任務よ。口外禁止ね」
「ヨッ!有屋幹部!」
「黙りなさい」
竹虎がふざけるも彼らは楽しんでいるみたいだ。だが辰美は疎外感で肩身が狭い。




