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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
(1) 瞑瞑裡の鼠《パラレルワールド再分岐前夜》
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瞑瞑裡の鼠 「現実は夢より奇なり」

「でも、私は会ったことないんです…けど。」

「ハァ?」

 落ちかけた金髪に何やら怪しげなキャラクターがプリントされたTシャツ。部屋着なのかおしゃれなのか判別のつかない、そのいでだちはいかにもやる気をなくした大学生だ。キャンパスにいても違和感がない。

 ヒロミの住む町は学園都市としてがんばろうとしているせいか、大学生が多い。多分この娘も町の大学に通っているのだろう。近所の大学生の子ならたまに話すぐらいの仲である。顔ぐらいは覚えている。

 が──この人を一度たりとも見かけたことはなかった。


「人違いですよぉ〜…。」

「そう、あくまでシラを切るつもりね。」信じてはくれずむしろ眉間にシワがまして寄ってしまった。

「夢ですし…」

「あ?なんか言った?」


「い、いえ。」異常事態だと狸に救難信号を送る。眼前にいる彼女のように超能力が使えるのだったら多分、狸に発信は届いただろう。

(悪い魔法使いの差し金?)ならすぐに狸達が駆け寄ってくるにちがいない。けれど道路はがらんどうで獣の気配すらしなかった。


 困り果てて考えあぐねていると、 

「で、自転車は無事帰ってきた?」

 一転女子大生はにやにやと意地の悪い問いかけをしてきた。

 やけに馴れ馴れしい上に痛いところをついてくる。あまり人付き合いは好きじゃないけれど、この手のタイプはもっと苦手だ。

 ……あれ?しかし、自転車を盗難したことを打ち明けたであろうか?


「えっ今日盗まれたんです……これは、予知夢でしょうか?」

「何言ってんのよ。あんたと私は初対面じゃないし、まさか本当に覚えてないの?!」

 本当にありえない!女学生はそう言いたげだ。


「夢、ですものねぇ…。」

 ─夢路にとやかくはないよ。狸の言葉を咀嚼しながら復思考を停止する。きっとどこかの「私」が夢路で彼女へ接触したのだと。夢なんていうものにあの世であるとか異世界であるとか人は様々な理由をつけたがる。魂の小旅行なのだから。

 そうか、悪い魔法使いは夢を経路して魂を攫ったのか。


「ホントに知らないんだ…。変な感じ。」

「その節はご迷惑をお掛け致しました。単位を落としてしまったんでしょう?」

「アハハ…もう怒る気も起きないよ。」女学生は力なく答える。

「夢から覚めろだの、もう一度会えて嬉しかっただの意味不明な事言われた身にもなってみてよ。」

「え…わたしがそんな事を?」

「うん。なんだか分かんなかったけど、色々考えてさ。…。なんでもない。」

「ええっ気になりますよ!」    

「でもさ!情報交換しない?アタシ達は同業者。お互い助けあってこうよ。」


「情報交換?」

 話をはぐらかされ、ヒロミはきょとんとした。

「そうよ。どうやら私はあんたより先を知ってるし、あんたはここがなんなのか理解してるみたいだし。しかも未来を先読みできるとか尋常じゃないよ。預言者として有名になれるかも。あたしとあんたにビッグチャンス到来!またの機会、お会いしたらそれぞれ秘密を教えるだけ!簡単でしょ?」

 銭のジェスチャーをする女子大生は悪い魔法使いよりも最低に見えた。


「夢というのは未来も過去もない、ここは時間という概念が機能しない。だから、ご覧の通り、私たちは他人でありながら知り合いになったりするの。」 

「まあ、なんとなく察する。だってこんな空見たことないし。」

 淡い紫色の光る夜空を仰ぐ。雪が降る冬空の赤紫色に近い雪雲とはまた異なる。それに雲ひとつない晴天である。お誂えした青白い小さな月が弱々しくアスファルトを照らしていた。

「紫色の空ってなんか気味悪いよね。現実感がないっていうか、なんか…見た事あるような?」

「赤色よりはいい気がします。まだ」

「まーね。血の色じゃん?…夢の中の越久夜町なんて、見水に言ったらおもしろがりそう。行ってみたいっていうだろうな〜」 


「だからこそ。秘密にしなきゃいけないんだよ。」

「えー。」

 子供を諭すようなヒロミの口調に女子大生はあからさまにムッとした。

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