夏休みの花火大会 5
「それにしても、他のパラレルワールドの見水 衣舞と小林 緑の何が違うのかしら?」
「え、まあ、パラレルワールドですし、多少変わってるのは普通な気がします」
でないと、パラレルワールドにならないのではないか?
「少なからず、小林 緑の辰美さんへの気持ちや過去に関心があったみたいだし。さらに衣舞に辰美さんが助けを求め、打ち明け─辰美さん自身も他人を信じ、他の時空とは異なる行動をした…それだけではない気がするけれど、この時空は何か優しいわね」
「優しい、…ですよね」
優しいような、突き放されているような。悲しいと思う出来事も、こうやって楽しかったと記憶する出来事もある。
一概に優しいとはいえなかった。
「そうねえ。でも気をつけて」
「…何でですか?」
「存在しないはずの人物である、不明確な貴方が。見水さんと緑さんに依存せざる得なくなってしまうもの。そうでないと消えてしまうのは避けたいでしょ」
「はい」
呪縛に近い「佐賀島 辰美」としての証明に縋るしかなくなる。それは必然だった。
「いづれ二人のためだけに判断を見誤る可能性があるわね」と春木に忠告された。
「それは一番してはいけない行為なのよ。私は知っているわ…前の代の最高神が、そうだったから」
花火会場に選ばれた有屋の別荘地は月咎山という山にある、立派なペンションだった。開けた場所にはBBQ場もある。
かつて別荘を構えた物好きがいたらしく、それを譲り受けたのだという。
バケツに水を入れ、防火の準備も万端だ。
「きゃ〜!」
見水が早速花火に火をつけ、遊びだした。化学反応の眩い光が炸裂する。
「ったく、結局来ないんじゃない」
あれだけ楽しみにしていた天津甕星の姿は無い。あの宙ぶらりんな言動からしてドタキャンは予想外じゃなかった。
「他に来てない人います?」
「あ、そうね。童子式神も来ないわよ」
「え、約束したんですか?!」
「まあね、落ち込んである様子だったから誘ってみたの」
童子式神は巫女式神と心中するのだと打ち明けてきたのを思い出す。
(…ホントに心中しちゃったのかな…)
「一応…遺言も預かったし、彼に思い残す事はないんじゃないかしら」
「頭ん中読まないでくださいよ」
「読むわよ、貴女、ブツクサうるさいんだから。でも今どき心中なんて馬鹿げていると思わない?」
星守邸宅で行き当たりばったり、二人は出くわした。気まずい雰囲気にはなったが有屋は童子式神に謝ったのだという。
──貴方を天津甕星だと目の敵にしていた。ごめんなさい。
──いいのです。あっしは…どこまでも紛い物でした。けど、この町で式神をし続けてよかったと思います。
「この町が良かったなんて、私でも言わないクサイセリフよ」
「許してないんですか」
「ええ。自ら命を絶つのが許せない。バカバカしい」
ため息をつき、レジャーシートに座り込んだ。
「二人とも。ロケット花火、するのでしょ」
見水と何やら花火をしながら話していた春木が安っぽいロケット花火を手に言った。「はい、先輩。やってみましょう」
先ほどからのテンションから一転、真面目に有屋 鳥子は頷いた。
「辰美さん、ほら」




