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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
276/349

夏休みの花火大会 3

「偽りなどやめ、自然な理に従い麗羅になれ」

 甘い、とろけるような声音で言い寄ってくる。不快だ。この上なく不快だ。

「これまで"支配せず"助けてやったのは、そのためだ。君は麗羅だからだ。麗羅としてもう一度、私の元においで」

「マジやめて…っ」

「今度こそは拒絶されようと一緒に終わろう」


 辰美は気持ち悪さに耐えられず号泣しそうになった。生きていく中で強姦される気持ちなど知りたくなかった。

(なんで…こんな目に)

 絶望しかけた自分の腕が勝手に、リネンの腹を蹴り上げた。彼女はよろけて転がる。


「ふぬけ」

 月世弥だった。巫女は立ち上がり、町医者をねめつけた。


「個人の証明は、その個人が決めるのだ。傍観するふりをした支配欲の塊めが」

 ドスの効いた声でリネンを罵った。

「他人に魂や人格を踏みにじられるのが嫌いなんだよ。クソ女」

「怨霊のなり損ないがでてきた」


(いこう。こんな女の近くにいるだけで腐りそうだ)

 体を返上し、月世弥は吐き捨てる。確かにそうだ。今すぐ逃げた方が身のためなのだ。


 辰美は相変わらずの薄笑いを浮かべたリネンをきつく軽蔑し、歩き出した──しかし拳銃をかまえる音が聞こえ、腕をかすった爆音に身を緊張させる。


「手を上げろ」

 威嚇射撃され、渋々両手をあげた。


「麗羅。君を一目見た時から"天運"を感じたよ──"運命の人"は私なんだ」

(運命の人って…)

 吐き気がする。運命の人などテレビドラマや漫画でしか聞かないのではないか?

 竹虎が言っていた事はあながち間違っていなかった。リネンは、見車(みしゃ)は麗羅に執着している。


「うっ」

 ドサリと何かが飛ばされ川に落ちる。振り向くとグリズリーがリネンを放り投げていた。


「麗羅さん!大丈夫ですか?!」

「ひいいっ」

「私です!魚子です!」

 大きなクマがいきなり現われた事に怯えてしまうが、彼女を知っている。


「な、魚子さん…何でここに?」

「見車 スミルノフ!あんな行為を働くなんて感心しないわよ」

 魚子の背後から有屋の声がした。川に落ちたリネンを見下ろすのがわずかに見える。

「人ならざる者どもめが」


「辰美!」

「見水ぅ!」

 気がつけばあの景色はなく、いつもの越久夜町が広がっていた。対岸には見慣れた商店街や山並みがある。あの奇妙な時間は消え去った。

 ホッとしていると、

「やああーっ!」

 気合いの入った叫びが響き渡った。逃げようとしたのか、あるいはこちらに復讐しようとしたのか──見水が町医者に見事な背負い投げを決めた。

 不意をつかれ、地面に叩きつけられたリネンは逃げも隠れもしなかった。即座に有屋や春木が押さえつけ、拘束する。


「リネン、ルール違反よ」


 ヘたりこみ、深く息を吐いた。銃を打たれるのも強姦未遂もとても怖かった。体が震えて力が入らない。怖い。涙が止まらない。

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