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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
275/349

夏休みの花火大会 2

 財布から硬貨を出して即買いする。多少湿気っていても支障はないだろう。

 ウキウキしながら荒物屋から出ると、先ほどまでなかった建物に釘付けになった。


 四階建の大きめの、屋上塔屋があるホテルがそびえ立っている。見た目も相当古く、窓ガラスからはカーテンが閉まっていて中は見えない。不気味だった。

 人の気配が全くないのだ。


「越久夜プリズムホテル?」

 有り得ない。越久夜町には旅館は一軒しかないという話だったはずじゃないか。記憶の中の越久夜町の景色に、この大それた建物はなかった。

 ──これは現実の建物ではない。


 気づいていち早く離れようと思った。小走りに道を戻り、墓碑群の前で辰美は背後を振り返った。


「今度は何に迷い込んだのかい?」

 リネンが向かい側から余裕綽々な様子で歩いてくる。


「リネンさん。()()ですね…」

「ああ、こんにちは。辰美さん」

「あの建物、現実の物じゃないですよね?」

 四階建てのホテルはまだ陰鬱に佇んでいた。

「ああ、あれは日本でもかなりひどい火災があったホテルだよ。随分前だけど死者も出た。それ以来、越久夜町の人たちは旅館を畳んでしまってね」

「えっ…じゃああれ」

「たまに出現するんだ。時期は違えど、時間帯でね」

 それに"今日まで"はお盆だ。彼女はそう付け加えた。

「あの世とこの世の境目に君は迷い込んでいるんだよ。辰美さん」

「えー、ま、またぁ?」

「助けてあげよう。しかしだ。私の手を取るのなら、の場合だが」

 優しく手を差し伸べ、彼女は言った。

「え…あの?」



「まさか無償で助けてもらえるとでも思っているのかい?」



 その言葉に声を失った。リネンはこれまで無償で──勝手に助けてきた。まるでこの時を予測していたかのように。


「…いいえ、大丈夫です。私だけで現実に戻りますから」

「へえ、強がるねえ。この世界は魔筋よりも強固だ。帰れるかな」

「なんだか、助けてって言ってほしいみたいですね」


 二人は笑いながらも冷たい口調で挑発しあった。辰美は早足に橋へ向かう。リネンからも、ホテルからも距離を置いた方がいい。

 橋を渡り終えようとした時、リネンに抱きしめられた。

「り、リネンさん!…落ち着いて──」


「私の本当の名は─ミシャ・スミルノフ。リネンという名は仮初のモノ」

「ひっ」

 きつく抱擁され、辰美はすくみあがる。


「麗羅。私を好きと言ってくれ」

 鼻を押し付けられ匂いを嗅がれた。欄干に追い詰められた今、抵抗もできず恐怖に固まった。


「わ、わたしは佐賀島──」

「いや、君はライラだ」

「私は佐賀島 辰美です!勘違いしないで!」

「佐賀島 辰美は佳幸(かこ)に殺されて死んだよ。嘘をつくな」

「やだやだやだやだーっ!」

 見車 スミルノフとして本性を現したリネンはそれを許さない。辰美をコンクリートに押し倒した。

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