夏休みの花火大会 1
八月十六日。
お盆が終わり、祖霊を送り返した緑は墓に仏花をお供えし、手を合わせた。
「まだ祖父は宇宙のどこかで生きているのかもしれない、それだけが希望です」
「うん」
「貴方は…」
「アタシ、お盆やった事ないんだ。麗羅さんも出生が分からないみたいだし、こうやってお墓参りするの初めて」
都会で見る大霊園とは異なり、越久夜町の霊園はこじんまりしていた。山の斜面に並ぶ古めかしい墓石群。
サワサワと木々が柔らかい音を立て、山のひんやりした空気が心地よい。
「それは…失礼しました」
「気にしないで。あ、そうだ。花火なんだけど、見水がコンビニで買うって」
「はぁ。子供みたいで、恥ずかしいです」
「いいじゃ〜ん。夏休みって感じで」
「夏休み、ですか…小学生みたいですね、辰美さんって」
「な、なにを〜!」
怒ってみせるも、彼女は気にしてもいない。柄杓を桶に入れると歩き出した。
「有屋さんの別荘へ行く時間までかなりありますから、花火でも調達しに行ってみては」
「あ〜、花火セットかあ。見水の分だけじゃ足りないかもね」
最近は花火セットをあまり見かけなくなった。公園や道で花火が危険であるという認識が広まったのもあるのだろう。
「緑さんは?」
「家に発煙筒がありますから」
「発煙筒?!いやいや、それ燃やしたら消防車きちゃうよ!」
冗談なのか、本気なのか…。彼女は平然としている。
「要するにないってコトでしょ」
「はい」
午後三時十五分。
「あれ?こんな所に、こんなお店あったっけ?」
探していたのは『山田商店』というスーパーマーケットである。場所は分からないが、この辺りだったかもしれない。
実際にあるのは懐かしい、アニメやドラマの情景で見かける古き良き荒物屋だった。ホーロー看板は錆びて読めないが、どうやら営業しているらしい。商店街の向こう岸あたりにあるせいで見逃していたようだ。
花火を購入するとなるとコンビニエンスストアしかない。他は今探しているスーパーマーケットか。
見水はきっとコンビニエンスストアで買うだろう。値段など気にしなさそうだ。
「おじゃましま〜す…」
店内に入ると、灯油ストーブの香りがしてノスタルジックになる。暗い照明も相まって、タイムスリップしたみたいだ。
「あった」
棚に花火セットが売ってあった。手に取るも、年季の入りように困惑する。
「花火大会など、バカバカしいと思わないのか?」
当然の如く出現した月世弥が、荒物屋の湿気っていそうな花火盛り合わせを眺めながら不平不満を漏らしている。
「夏は花火でしょ」
「越久夜町が花火大会など催した事ないのに?」
「スイカ、アイス、夏祭り、花火!」
「はあ」
「おばあさん、この花火セットっていつの?」
レジ横に座っていた高齢の女性に話しかけると、「百円だよ」と静かにいった。
「やっすい!これ買います!」




