ひどいネタあかし 5
「あー、疲れた」
ここ最近の出来事で、こうして何もしていないのに精神的に疲労している。
(けどさ、一番傷ついているのは緑さんだよね…)
あれから、一部始終を傍聴していた緑からの連絡はない。音信不通と言うべきか。電話をかけても繋がらないのだ。嫌われたら…などとウジウジしていたりもしたが、今更どうしようもない。
(てか、この剣どうしよう)
三ノ宮を廃人にしたあの夜から鞘もない、鋭い剣が畳に刺さっている。困り果て大家さんに見せたがバックソードによく似た、よく出来た偽物だと勘違いされ、そのままに至る。
天道家に奉納しようとも考えたが、月世弥も手放したくないようで夜な夜な現れては、寝ずの番をしていた。
(よっし!ここはイッチョ緑さんに謝ってみよう)
悪いのは自分ではないが、しょうがない。緑の感情のはけ口になるのならビンタ一発だって受けてやろう。
小林骨董店。老舗だと物語る錆び付いた看板が目印の、変哲もない骨董屋である。
「お邪魔しまーす」
ガラス戸をスライドさせ、いつものように店に入った。
(ん…)
『怪奇!三ノ宮の一族!』と題された、越久夜町タイムズがレジに置かれている。さっきまで緑はレジにいたようだが、席を外し、どこかに行ってしまった。
近所の人と話しているだけかもしれない。居間で変死しているのではないか?──悪趣味な情景が浮かび、慌てて廊下に上がった。
「緑さーん…」
ゴミだらけの居間には人らしき物体は無い。だとしたら書斎である蔵だろうか?
「緑さーん?どこ?」
中庭に出ると、エベルムがいるのを見つけた。白銀の犬が二足で立っているのだ。見間違えるはずがない。
「小林 緑。お前は天の犬になる覚悟はあるか?」
「…私は…」
緑は宇宙狩猟の猟犬群の洗礼を受けそうになるっている。
妖しく光る瞳に魅入られたように緑は──
「勧誘ならわたくしだけしなさいな!」
横槍を入れたのは辰美ではなく"アトラック・シンシア・チー・ヌー"だった。突如現れ、エベルムをキックドロップで攻撃し、軽々と着地してみせた。
ジャラリン、と鈴が鈍く鳴る。その音は中庭にひどく響いた。
「大丈夫ですか?イズナ使いさん?」
チー・ヌーが邪魔をするなど予想ができようか。唖然としていたこちらは我に返ると慌てて、緑に駆け寄った。
「緑さん…大丈夫?!」
「ああ…私、私」
「シンシアさん!あ、ありがとう!」
辰美は礼を言うが、少年は首を横に振った。
「貴女のためじゃない。わたくしは坐視者が嫌いなだけ」
「何すんだてめぇ!」
「イレギュラーな行動はおやめになって?」
優雅に彼は言ってのける。その余裕さにエベルムは舌打ちした。
「イレギュラーを起こしているのはお前だぞ。慎め」
「わたくしたちの尊い秘密を、全てを、ネタあかししていいのですか?」
「チッ。覚えてろ!」
幼稚に苛立って──小者めいた捨て台詞を吐き、彼は時空から去っていき…やがて透明になっていった。
「いいですか?イズナ使いさん?」
チー・ヌーは涼やかに、髪をサラリと指で梳いて笑ってみせた。




