ひどいネタあかし 4
「神世の巫女が復活しおった」
「世も末だ」
ミイラたちが口々に嘆き、神世の巫女はうざいと品がなく舌打ちする。
「お前たちを成仏させてやるよ」
「我々はこの世に留まり続ける。それが我々の役目──」
磔にされた巨大な獣の死骸を封じていたしめ縄を、床に括り付けていた結び目を切り裂いた。
獣の体は地面に落ち、無惨にも破損する。その様子は何度か山道で目にした事があった。
(た、タヌキ?)
辰美はヒグマより身長があるであろうタヌキなど見た事がない。だがそれは車に轢かれ、腐敗し、毛皮だけになったタヌキそのものだった。
外から獣の悲しげな咆哮が聞こえる。一匹ではなく、たくさんの叫び声が夜の山こだまする。まるで哀悼の意を示しているような。
動揺していると限界を迎えていた柱が軋みだした。煤埃を降らせながら、お堂が終わりを迎えようとしている。
『よし、剣も手に入ったから帰るぞ』
「ぎゃっ!」
いきなり主導権を譲られ腰が抜けた。「どうすんのこれ!触っちゃいけない装置でも押したの?!」
『あのタヌキの怨念か霊力で保たれていたんだろうよ』
ズタボロの毛皮と化したタヌキの死骸は崩れつつある建物の瓦礫に埋もれていく。
「あ、三ノ宮さん!」
この状況でも放心状態である跡取り息子を引っ張り、外に出る。寸での所で廃寺が倒壊し、呆然と佇んだ。土埃が舞い咳き込む。
隣にいる、無理やり連れてきた三ノ宮はただ宙を見つめ、何も感じてないようだった。
「三ノ宮さん?」
「…」
視界に入るように手を振ってみたが反応がない。
「三ノ宮さん?!どうしたんですか?!」
腑抜けた状態になった跡取り息子に愕然とするも、緑にもう一度電話しなければならないと携帯をみた。
(通話中になってるー!)
「あ、あー、えっと緑さん…?」
「助けを呼びます」
無感情な声が聞こえてくる。「辰美さんはその場から動かないでくださいね」
「は、はいぃ…」
四日が経ち、町はざわついていた。
三ノ宮家の跡取り息子が廃人になったと、越久夜町の人々を震撼させたのだ。加えて倒壊した建物から遺体が何体も見つかり、町の警察も出動する羽目になったらしい。
三ノ宮家はそれについて黙秘しており、警察と天道家がさらにメスをいれるとの事──
内部で巻き起こった事件は様々な憶測を呼び、辰美が住むボロアパートにまで噂はやってきた。大家さんが怖い世の中だと、どこか楽しそうに、他人事で口にしていた。そんなものだ。 人というものは。
辰美は地味に痛む挫いた足を、氷嚢で冷やしながらぼうっとしていた。




