ひどいネタあかし 3
──越久夜町の龍穴を牛耳っているのを知り、衝撃のあまり物音を立ててしまった。足元に落下した天井の破片があるのを失念していたのだ。
「誰だ!」
「あ、あー、あはは」
「辰美さん、どうしてここに!」
数多のロウソクの明かりに照らされていたのは──何体もの即身仏だった。皆煌びやかな高位の、僧侶の法衣を身につけて居る。が、太い柱へ頑丈にしめ縄で頑丈に縛られ──それはむしろ封じられているか、はたまた生贄のようだった。
「ぎゃあああ!ミイラ!ミイラ!」
初めて目にするミイラ化した死体に悲鳴をあげ、扉に飛びついた。
「あっ!逃げるな!」
「いやああ!来ないで!ミイラの妖怪!」
「ぼ、僕はミイラじゃない!これはご先祖さまだ!」
「ぎゃああああ!ご先祖さまとかマジありえない!!」
「うるさい小娘だのう」
ぎゃあぎゃあ騒ぐ間抜けな人間らに、ミイラたちは殺気立つ。眼窩は落ちくぼみ、ミイラ化を越え骸骨に近い者もいた。しかしあるはずのない眼光をヒシヒシと感じた。
まるで魂がこもっているみたいだ。
「神世の巫女の剣を使う時がきた」
一体の一番手厚く扱われ、かなり年季の入った即身仏が言う。
「剣?」
視線が集まる先、秘仏が収められる空間に、何か粗末に扱われた毛皮があり、古びた──しかし丁寧に磨かれた大振りな剣が刺さっていた。
「あれって…」
その剣を何度か目にした事がある。
「妙順、その剣で部外者を刺し殺せ」
「ひい!?む、無理ですよぉ!人殺しなんて!」
彼は首をブンブンと横に振り、全力で拒否し逃げようとしていた。
「三ノ宮家の顔に泥を塗る気か!」
先祖に叱られ、泣く泣く剣に歩み寄る。
「さ、三ノ宮さん!うそですよね?!」
「ううっ、許してくれ」
『私に体を貸せ。今度こそは乗っ取らせてもらう』
絶体絶命の危機に陥っている際に、いきなり月世弥が口を開いた。
(む、ムリ!!)
『問答無用だ』
拒絶しようとしたその瞬間、意識が遠のいた。体をコントロールしている感覚がなくなり、あれよあれよと隅に追いやられる。
「やっと見つけた…」
「な、なに?」
たどたどしい手つきで剣を引き抜いた三ノ宮が異変を感じ、振り向いた。
「その剣…ずっと探していた。さあ、剣と私の身体を返してもらおうか?」
「は?…た、辰美さん?」
「私は辰美ではない。ツクヨミだ」
ポケットから肌身離さずしまっていたブローチを取り出すと、フッと息をふきかけた。乾いていたブローチの表面から、血が滲みだし床へ落ちる。
その血溜まりから天井に届きそうなほどの、山羊に似た化け物を出現させた。
人と山羊が綯い交ぜになった奇妙な化け物は悲痛な鳴き声を発する。
「な、な、何が起きてるんだ!」
荒れた髪がタラリと上から垂れ下がる。山羊のおぞましさに彼は剣を振り回した。
「剣を粗末に扱うな」
月世弥の怒りが滲んだ声音に、腐乱死体が骨を鳴らしながら大口を開ける。
「やめて!やめ!殺さないで!」
命乞いをする三ノ宮 妙順を腐敗した山羊の頭部が潰した。いや、噛み砕いたのだ。
辰美は咄嗟に目を瞑り、断末魔に怯えた。怯えた所で何にもならないのを知りながら。




