ひどいネタあかし 2
「私、本物の佐賀島 辰美じゃないんだよ。本物は、今何してるのかな」
「…そうですか」
「緑さんに出会えて良かった。佐賀島 辰美として、越久夜町にこれて…」
「貴方は、本当は何て言う名前なんですか」
「私は──…あっ…。古いお寺がある!」
「寺?越久夜間山に?」
人ならざる者に傾いた目のおかげで、崩れかけた廃寺が月明かりに照らされているのを目視できた。社殿よりは小さいが、元々は荘厳な装飾や造りをしていたのだろう。
建物は歪み、傾斜し、今にも倒壊しそうだ。
歪んだ入口を閉ざしている扉の隙間から、わずかに明かりがついているのが見えた。
LEDや蛍光灯ではない。もっと弱々しい明かりである。
頼りに人に助けを求めようと、扉に近づいた。
「良かった、人がいるみたい」
「…辰美さん。それ、怪しくありませんか?」
「うっ、確かに…どうしようかな。中を見てから──」
誰かがボソボソと話している。複数人の、ハッキリとした声音に対し、一人は蚊の鳴くような声だった。
それは寺の中から聞こえてくる。
(やっぱ誰かいる!)
ひそやかに扉に近寄り、覗き込んだ。
「──部外者が我々の秘密を嗅ぎつけてしまったようです。どうしたらいいでしょうか?」
怯え、震えているのは三ノ宮 妙順だった。
「うそ…三ノ宮さん?」
「三ノ宮が?」
「──何を言うか。我々は小林家を打ちのめし、越久夜町の主導権を握った。町の秩序を定めたのは誰か。三ノ宮一族だ」
ハッキリとした男の声音が、伽藍堂に響いた。
「霊力の高い獣人族と政略結婚したのは、我々がいたからこそ」
「我々修験者がまだ世を握っているではないか」
「あの星守を退治できたのも、邪魔者が消えたのも我々の力だ!」
笑い声が響き渡り、異様な雰囲気に包まれていた。
「余所者など捻り潰してやればいいのだ!」
「し、しかし」
勇ましい彼らとは対象に三ノ宮は怯え切り、縮こまっている。
「神世の巫女の遺骨や剣を持つ我らに、山の女神は楯突くまい」
「妙順。ビクビクしてみっともないぞ」
「で、でも、父さん」
(父さん?お父さんもいる?)
「私が徹底的に小林家を追い詰め、あまつさえ緑を飼い殺しにして無力にした。他に何が必要というんだ?」
(待って待って!お父さんが)
極悪非道な仕打ちとはこの事だ。妙順は、父の言いなりらしい。彼は頭を垂れた。
「は、はい…」
「天道家さえ、我々に口出しできぬ」
──三ノ宮一族は、タヌキ妖獣人─前の人類の家系でありつつ、中世からは魔法使いの家系だからだ。
獣人類の頃から続いてるからこそ、町を知り尽くしている貴重な生き証人である。タヌキの妖獣人の血筋を濃く引いているせいか、または"タヌキは人を化かす"力が得意で、人を化かす人ならざる者に過敏。人を化かすことに特化しているので、嘘や幻を見破りやすい──
彼は天道家を嘘物だと言っていた。
(嘘ではないけど、三ノ宮家は確信犯なんだ)
「妙順。絶対に、神域の起点にある龍穴を誰にも渡すな」




