ユートゥー・ノーモースター・スアヲルシィとかわいそうな迷子の犬 3
月世弥のヤジに子供は怒った。自分の所属にとても誇りを持っているようだ。
「いいかい、人間さん。地球では"世界"が五回創造されたと伝えられておる。既に超古代文明は四回滅びているのだ。五回目がホモ・サピエンス─今の人間の世界でね」
それは「第五の月」と呼ばれ月は"世界"であり時空を指すのだという。
「エベルムは"第一の世界"を崩壊させた事柄に深く関わっているのだ。その際にユートゥーを殺めたと勘違いしている」
「え、あの、初耳なんですけど」
「アヤツの執着はおぞましい。絶対に話してはいけぬぞ」
「う、うん」
秘密に、と唇に人差し指を当てるジェスチャーをされ、その動作がまた子供らしい。だが中身は人でない。見た目に惑わされてはダメだ。
「ほれ、帰れ!」
「はいはい!わぁーったよ!行こう」
巫女は雑に返事を返すと、来た道を歩き出した。
「じゃ、じゃあ!」
「ふぅん…あれが■■の佐賀島 辰美か。想像していたよりひよっこだな」
(えっ…?)
ハッと振り返ると、マハスティ・アチャの姿はなかった。
──エベルムには絶対ユートゥーの話を絶対するな。アヤツは狂っておるのだ。
エベルムは以前叶えたい事があると零していた。それは"顧兎"に会いたい、なのではないか。
越久夜町とユートゥーに接点がないように見える。しかし月世弥はユートゥーと密談していた。一概に無関係とは言えない。
「よお。珍しく真面目な顔をしてるな?」
「うん。ユートゥーさんについて考えてるんだ」
「なんだって?!」
(あーっ!やっちゃった!)
「おい。その話、俺に聞かせろよ」
凄みを効かせたエベルムに脅され、狼狽する。もし話してしまえば、あの最高司令官に叱られるかもしれない。
だが、コイツに害されるのも嫌だ。
そこで辰美は「秘密にしてくれるなら」とダメ元の口封じを命じた。
魔筋の行き当たりでユートゥーに出会った事。辰美は会う資格がない事。秘密にしろと言われた事──
(アタシって口軽くない?)
命拾いするための狡い処世術として正当化するしかなかった。
辰美の話に、彼は通常のスカした態度ではなく、心底驚いた様子でこちらを見てきた。
「あんたの妄想じゃあないよな?」
「う、うん。本当だよ」
「あいつ、生きてたのかよ!」
オーマイガーと、彼はオーバーなリアクションをした。
「間違いなく死んだって噂されていたのによ」
「死んだ?」
「太陽の世界の衛星眷属に殺められて、もう会えないと思っていたんだ」
「えいせいけんぞく?」
「ああ、ユートゥーみたいな奴だよ。確かに、"太陽の子"の炎に焼かれて。俺は見たんだ。焼失していくのを。月の子に連れてかれてそのまま…ああ、なんて事だ」
クラクラした頭を気遣うように、手を添えて座り込んだ。




