ユートゥー・ノーモースター・スアヲルシィとかわいそうな迷子の犬 2
「あんたはこの輪を何度か目にしたはずだ」
干渉者になった時。
坐視者になった時。
死した時。
色んな自分がいた事を否定できずに戸惑う。あれを見ていると分岐した世界や人生を思い出しそうになるからだ。
「アタシ、これからどうすればいい?」
「すぐ路頭に迷うな。お前は」
「だって」
「幸せな結末を作るんだろう?この宇宙の幸せに倣えばいい」
「皆が輪廻の一部であるのがこの宇宙での幸せである」と月世弥に告げられる。
「この世界はそういう所だ」
(あっ…)
ユートゥーが"月の現象"の真ん中に佇んでいるのに気づき、ゾッとして俯いた。
「えー、そこの二人。動くな」
突如拡声器を介した声音が響き、仰天する。警察にしては幼い声であり、目の前に降ってきた者だと気づくには時間がかかった。
緑色のコートを着た摩訶不思議な子供は拡声器片手に、こちらを自信ありげに一瞥した。
小学三年生くらいの女子。褐色肌のザンバラ頭、そして虹色の瞳。人ならざる者だ。
「私はマハスティ・アチャ。坐視者の最高司令官だ」
「ぎゃあ!」
発砲されたビームをかわし、辰美は月世弥の後ろにまわった。
「直ちにここから去れ」
「いきなり攻撃しないでよ!」
「ただの脅しだ。当たっても痛くない」
ビームを発した見慣れない銃を上に向け、マハスティなる者は腕を組んだ。
「この先立ち入り禁止区域だ」
「なにそれ?宇宙にもあるの?そういうの」
「ああ、そうだ!特にアカシックレコードへのアクセスは宇宙で禁止されておる」
「あか、アカシア?」
「アカシックレコード!」
「すいませんほんと!」
子供はやれやれと呆れた様子で何も無い先を指さした。
「君らがアカシックレコードに近づいてしまうと人々が場へ近づいてしまう。境界線があやふやになってしまうんだ」
業界では太虚とも言われている、とマハスティに聞き辰美は沈黙する。
太虚へ行けない理由が分かった。極秘の倉庫なのだ。
「蕃神らも黙っておらんぞ」
「あーっ!分かった、タツミ行くぞ」
「な、なによ?」
「知らんのか?蕃神どもを?」
違う宇宙──多元宇宙から来訪した神。この数多の宇宙が弾け終わってしまうのを憂い、阻止しようとしている。
何も本作の宇宙が特別扱いなのではなく、見つけられれば番神たちは救済措置を行う。
"太陽の子"の宇宙から来た者や他のルールで動いている宇宙の、神霊と呼ばれる者たちの総称である。
番神たちは信仰されているか否かは問わず、人智を超えた存在であり眷属を持つ存在で、神と呼ぶにはバラつきがあるかもしれない。
中でもアヴァローキテシュヴァラとも呼ばれる存在がいるのを地球に属する神々は知っている。
「坐視者はレジュメを渡すのが好きなの?」
渡されたレジュメを手に、印字された文字にため息をつく。しかし坐視者は自慢げだ。
「手っ取り早いだろう?それに我々は宇宙の秩序!正確な情報を提供する役目がある」
「は、はい」
「ム!君たち、越久夜町の人たちか。確かエベルムがいる…」
越久夜町を存じているとは。辰美は本当に有名な"呪われた"時空なのだと実感する。
「エベルムとは知り合いなんだよね?」
「…いや、…お願いがある。エベルムには絶対ユートゥーの話を絶対するな。アヤツは狂っておるのだ」
「あの犬っころが狂っているのは有名でしょ」
「犬っころではない!宇宙狩猟の猟犬だ!」




