表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
262/349

心中 4

「星神の魂を、戻してあげてください。この際星神の欠片をあげようと、辰美さんを探していたンです」


 頭に付けていた髪飾りを器用に取ると、こちらに渡してきた。星があしらわれた可愛らしい金と青の髪飾り。辰美は戸惑いつつも、それを受け取った。

「その髪飾りに魂を移しましたので、よろしくお願いします」

「あ、うん…」


「じゃあ、サヨウナラ!」

 清々しい様子で童子は走っていった。


「あ、そうだ。包帯買ってこう…」

 童子式神の背中をぼーっと眺めていると、新しい包帯を買おうと思い至った。後はレトルトカレーである。有屋から再び食料をもらう約束はしたが、今度はコンビニエンスストア限定のキーマカレーにハマってしまった。


(我慢するべきかなー。キーマ)

 ぼやぼやと悩みながら歩いていると、嘔吐している人がいた。このご時世だ。宴会でもしたのだろうか?

 遠巻きに助けを呼ぶか考える。もしノロウイルスだったら、こちらも感染してしまうかもしれないからだ。


(とりあえず通り過ぎてみるか…)


 そろそろと横を通過して、気づいた。嘔吐しているのではない。何かを一心不乱に食べている。

「あ!」


 ──緑が一際大きい椿を食べている。ムシャムシャと貪るように。


 辰美は咄嗟に椿をもぎ取ると、地面に投げつけた。

「何してんのよ!」

「邪魔をしないでください」

「食用の花じゃないんだよ?!毒があるかもしんないのにっ!」

「春木さんにもらったんです。美味しいと言ってました」

 思考を停止した、無機質で気の抜けた口調に悲しくなった。


「春木さんは…。…。ねえ、じゃあさ、私と一緒にアチラの世界に行こう。一緒に、人ならざる者になろうよ」

 抱きしめ、きつく力を入れた。目の前に緑がいるはずなのに存在感がなかった。

「…人ならざる者、ですか」

「うん。今なら私、バケモノになっても良いって思える」

「貴方とは踏み切ってはいけない。辰美さんは人間であるべきです」

 正気に戻り、彼女は抱きしめた腕を優しく解いた。

「どんなに、体が人ならざる者になっていっても、貴方には、心だけでも人であって欲しい」

「どうしてそんな事いうの…?」

「春木さんも、有屋さんも…私も、見水さんも、そう思っているからですよ」


 その言葉に、どう反応していいか迷った。(私はそんな人じゃない…)




 疲れきり帰路に着くと、見水(みみず)がアパートの階段に座っていた。手にはお手製の菓子が入った紙袋を持っている。また懲りずに菓子作りに励んだのだろう。

「あ、辰美!」


「見水。どうしたのよ?また連絡も寄越さずに」

「あのさ…緑さんから聞いたんだけどさ…八月がループしてるの?」

「あー」

 やはり田舎とは恐ろしい。あっという間に噂や事実が伝わってしまう。


「そうなんだよ。八月が」

「私は、終わりなんてきて欲しくないな!」

 見水が痛いしいほどの空元気で遮った。

「まだ辰美と、緑さんと過ごしていたい」

「…うん」

「八月がずっと続いてもいいよね!だって、夏休みが終わらないなんてさ。フィクションみたいだし、それに辰美とこうして遊べるもん」

 見水の悪戯めいた言葉に、胸にさざ波が立つ。


「う、うん」

 じゃあ、と悪魔の感情が芽生えてしまう。ずっと夏休みを過ごそう。ずっと夏に捕らわれて遊んでいよう。


「見水は、八月が終わっても──私の前からいなくならないでね」

 口からやっと出たのは、心中めいたものとはかけ離れたものだった。


「ちょっと?泣いてるの?!」

「泣いてないっ」

 涙を拭いて、無理やり笑ってみせる。上手く笑えてないのは百も承知だった。

「辰美〜、泣かないで。大丈夫。辰美には皆がいるんだから!ね!」

(皆がいる、か…)

 涙を流す自分を見かねて、見水が赤ちゃんをあやすような口調で撫でてきた。


()()()()()()()()夏休み楽しもう!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。

こちらもポチッとよろしくおねがいします♪


小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ