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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
259/349

心中 1

 わりと涼しい夜が明け、野鳥のさえずりがそこかしこから聞こえてくる時間帯。辰美はベランダでタバコを吹かしながらも、透き通った青い景色を傍受していた。


「開けてくれよ」

 誰かにノックされ、渋々開けると巫女式神(みこしきがみ)がいた。

 不気味な色をしている瞳。黄色と赤紫。絶望で淀み、頬や体には傷を負っていた。


「傷?!何があったのよ」

「喧嘩して負けたんだ」

「マジ…」

 人ならざる者も喧嘩をするのだと感心しつつ、巫女式神を家にあげた。


「メンタームしかないけど、傷に塗るよ」

「ありがとう」

 砂利に塗れた手をみやりながら巫女式神はため息をついた。


「あーあ。山の女神は強かったよ」

「春木さんと戦ってきたの?!」

「ああ、あたしが負けちまうなんて、始めてだ」

 濡れたタオルとメンタームを手に、やさぐれた来訪者の前に座った。


「潮時なんだろーな、もう」

 ヤケになり薄笑うその様子に、辰美は巫女式神へ問うた。

「あなた、詰まるところ何者?鬼神の眷属じゃないのは知ってるよ」

「いいや?パラレルワールドから来た、眷属だ」

「嘘をつかないで」

「バレちまったか。あたしはどちらでもない。どっかの犬と似たような存在さ」

「まさか…ティエン・ゴウなの?」

「ああ、食神鬼(しょくじんき)だ」


「…」

「けれどな、あたしが坐視者でも干渉者でも、自分が叶えたい事柄を手に入れるだけ」

「叶えたい…」


「あんたには無いのかよ。叶えてやりたい出来事は?!」


 詰め寄られ度肝を抜かれていると、彼女はため息をついた。

「ごめん」

「…巫女式神は、それを手に入れたらどうするつもり?」

「さあ、分からない。あたしも未知なんだ。ただこの時空からは去ると思う。あの人と」

「そっか」

「…。あの人は、あたしの希望なんだ」

 わずかに目の端に涙を浮かべて、巫女式神は不格好に笑う。


「あたしはあの人を愛している。愛を誓い合ったんだ。だから」

 人ならざる者の浮かべる表情ではない。あれは人間だ。


「すまねえ。話しすぎた」

 メンタームを傷口に塗られ、彼女は呻く。

「人ならざる者でも痛がるんだね」

「そりゃあね」

「このままだとチー・ヌーに時空を壊されちゃうんだ。そっかぁー、なにしとこうかな」

「…最高神を倒すんだ。彼女の自分勝手な諦めが時空を腐らせてる!」

「否定はしないよ」

「チー・ヌーは、山の女神に悪事を吹き込んで…ああ、馬鹿げてる…熱くなって、何してるんだか」

 疲れ果てて、肩を落としてしまった。


「──あたしは、あんたに成り代わらないとあの人を救えないんだ」

「童子式神さんを?」

「っ…ああ」

「アナタはいいね、救いたい人がいて」


 その言葉に巫女式神は怒った。辰美に飛び蹴りをかまし、怒鳴る。

「他人事かよ!お前はいつもそうだ!他人事で!時間が無いんだ!越久夜町は、童子式神はまた死ぬ!お前は上手くやってると思ってるがな、チー・ヌーによって町は」

「…うん」

「あたしは童子式神さえ…」

 鋭い異形の歯を食いしばり、感情を飲み込むと深呼吸をした。

「ああ、だめだ。()()()()()()ない。…傷の手当て感謝するよ…じゃあな」


 逃げるように部屋を出ていくのを為す術なく見送る。蹴られた脇腹がズキズキしているが、血は出ていなかった。変わりに体毛が濃くなり、獣化が進んでいた。


 ──天の犬へのカウントダウンが進んでしまった。

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