憐憫 7
強引に二人を四ツ岩トンネルまで連れてくると、車を停めた。四ツ岩トンネルの外壁にはツタが絡まり、風化が始まっている。人の手が入らなくなった途端にこれだ。
「倭文神、有屋!久しぶりだな!」
水分が立っていた。ダボダボのスウェットを着こなした、有屋 鳥子よりも若々しい田舎の金髪ギャルがそこにいる。
「…水分」
「倭文神、勝手に絶交されたの根に持ってんだぜ。なんだよ、あたしたちに何で言わなかったんだよ?あんたが越久夜町で除け者にされてたなんて」
「お前には分からない、お前は、力があって、最高神になる素質があった。でも私には特異な力はあっても、素質がない──脇役だった。その気持ちが分かる?!」
「は…?覚えてないのかよ、御厨底町へ亡命しようと持ちかけたじゃないか!」
「え?」
彼女は呆然としていたが、やがて有屋を睨め付ける。「お前、まさか…」
「口止めされたのよ。新しい最高神に」
「な、なんで…」
倭文神の幼い顔がみるみる内に真っ青になり、しまいには俯いた。
「倭文神。最高神なんて執着しなくても、あたしたちに助けを求めれば良かったんだ…邪険に扱わないで、普通に話せば──」
意味のない慰めに、小さな神霊は目を伏せる。
「遅いよ」
「あ?」
「何で、それをもっと早く言ってくれなかったの…」
涙がポタポタと流れ落ち、アスファルトに染みていく。それを辰美は為す術なく眺めているしかなかった。
(神さまが泣いてる…)
「憐憫」はこれにて完結しました。
ありがとうございました!




