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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
253/349

憐憫 2

「そうだよ、越久夜町は土砂災害で…すまない。あたし、無神経なんだ」

「いつ、災害は起きたんですか?」

「六月だ。星守の坊主が搬送されて助かった以外は何も」


 六月とは悪い魔法使いを退治した月だった。"越久夜町の外"では梅雨前線が停滞したうえに、遠く離れた海上の台風が低気圧になり、刺激してしまったのだという。

 雨が降り続き、ダムが緊急放流をした。それだけではなく、土石流も起きたのだ。

 確かに雨が降り続いていた時期がある。あれはその兆しだったのか。


「星守さんは元気なんですか」

「うん。元気に過ごしてるよ」

「そっか…」

 悪者として一躍かっていた彼だが、星守一族の理由を知ってからは善悪で測れなくなっていた。ホッとしてると、バツが悪そうに水分は口を開いた。


「お前さ、頼まれてくれねーか?」

「へ…」嫌な予感がする。

「隠密に、あたしの願いを聞いて実行して欲しいんだ。ほら、今さ、台風が来てるだろ?悪ければカスリーン台風級かもしれないんだ。外部と連絡が取れなければダムが決壊する場合がある」

「ラジオは通ってますよ」

「そりゃー良かった。こっちは土砂災害から学んで、ダムを強化しようとしてる最中なんだ。けど、連絡が通らなくなってる」


 越久夜町の上流にあるアーチ式コンクリートダム、越久夜ダム。よく放水のためのサイレンが鳴るが、辰美はダム湖へは行った事がなかった。


「あのバカ、ひきこもっちまってよ。断交状態だったんだ。よくウチの町の人間も神隠しにあって、困ってんだ」

 あのバカ──最高位の神霊である天道 春木を"バカ"呼ばわりできるのは、この人だからだろう。

「どうにかして、時空を蛭間野町や御厨底町に繋いでほしい。それか外部の因子を紛れ込ませるだけでいい」

 お願いだよ。彼女は本気で頼み込んでいる。

「土砂災害が起きてしまった事は覆せねえけど、これからの事はまだ間に合うんだ。人間さん、よろしく頼むよ」


 通話状態が悪くなり、ノイズが走り始めた。やがてビジートーンが鳴って切れてしまう。

 辰美は携帯を眺める。登録された携帯電話番号ではなく"使用不可"と表示されていた。

 世界を救え、と無理難題を押し付けられたくらいのアバウトさにため息がでる。


 押し入れから雨合羽を取り出し、とりあえず町役場に向かう事にした。

(町役場に行けば有屋さんいるかなー)

 有屋に訳を話して責任放棄してみるのも手である。

「とりあえずメシ!飯メシ!」



 カレーを食べ終わり、外に出る。思いのほか暴風雨が深刻だった。

 こんな日に外出している輩はおらず。辰美だけが道を歩いている。

 町役場に向かう途中、星守邸宅を通りかかった。あれから固く閉ざされた屋敷門が僅かに開いていた。

 暴風で開いたのかもしれぬ。だが、胸騒ぎがした。


 無断で門を潜り、扉を閉めた。ふいに視線が紫色を見つける。童子姿の倭文神が庭先に佇んでいた。雑草が覆い尽くそうとしている庭を、ジッと見つめている。

 星守はあちら側に行ってしまい、いないのだ。主のいない邸宅はひどく劣化して見えた。

「こんにちは。吾輩さん」

「ああ、辰美殿」

「台風が来てるのに、危ないよ」

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