憐憫 1
久しぶりにぐずついた天気になった。いつものように海上で台風が発生して、関東地方へ接近するという見込みが立てられ、警戒がされている。
『──九百五十二Paであり、二年前の台風で被災した地域は──』
もしもの時のために、と大家さんが持ってきたラジオからとめどなく防災情報が流れてくる。
吹き付ける南風に窓ガラスがガタガタと音を立てた。
蛭間野町は越久夜町の隣町である。辰美や見水が通っている大学もあり、学生寮がほとんどだ。学園都市として発展しているだけあって、越久夜町とは異なり日用品が手に入りやすい。
梅雨まで、いや、八月の終わりまでは何度かスーパーに向かい、生活必需品をしたりしてきた。
蛭間野町にも神々がいるとは想像がつかなかったが、冷静に考えると当然だろう。
日本全体に天道 春木や有屋 鳥子のような神霊が居るに違いない。
「コンビニ、高いんだよなー。どうしよう」
レトルトのカレーを湯煎で温めながら、ぼんやりしがちになる。
食材を揃えるのにも無理がでてきた。スーパーもない、陸の孤島でどう暮らせと?
電気やガスは不思議と供給されているらしく、ライフラインが途絶えた事はない。ご都合主義というやつか。
「ストックしてたのも終わってきたしなあ」
レトルトカレーと白米も飽きてきた。
(有屋さんに甘えようかな)
謹慎中の有屋に泣きついて、食料を分けてもらおうか。つらつらと考えていると携帯が鳴った。
「緑さんかな。もしもし」
まさか隣町の神々から電話がかかってくるとは思うまい。
「よう!あたし!水分 羽之だ!やっと繋がった。今まで何してたんだよ、有屋」
「あのう、私、有屋さんじゃなくて」
「あ!?お前誰だよ!」
神というと、有屋や春木など落ち着いた雰囲気だとばかり思っていた。
「佐賀島 辰美です」
「すまねー。人違いだった」
「待ってください!有屋さんから話は聞いています」
受話器越しに息が詰まるのが分かる。女性は疑心を持ち、わずかにトーンダウンした。
「てことはさぁ。あたしが何か分かってんだよな」
「最高神、ですよね」
「お前は越久夜町の神か?」
「あ、いや、人間です」
「チッ。んだよー、人間に携帯任すなよー」
苛立ちを含んだ声にげんなりするが、向こうの水分は気を取り直そうと深呼吸をした。
「すまない。有屋の事だから何か事情があるんだろ」
「まあ、今、謹慎中らしいですし」
「は?バレたのか?あのオンナに!」
「まあ…」
困った奴だなー、と彼女は呟いた。
「でさぁ、有屋は無事なのか?倭文神は?」
「あの、無事ですけど何でですか?」
「土砂災害があったろ?!」
「土砂災害…?」
携帯を落としそうになり、慌てて手に力を入れた。心臓が早鐘を打って、気持ち悪くなる。
れんびん で読み方合ってますよね…




