小さな村、おくやまち 7
「干渉者としては普通なんじゃあないのかなァ?だが、記憶や存在を奪われる悲しさ、頼りなさは経験してみないと分からないね」
「天津甕星って、何で干渉者だったの?アナタも辰美さんの…白痴の霧瘴の、眷属なの?」
「いいや、最初は金星を司る神だった。ある理由で干渉者になった。それだけだよ」
「ホントに?」
「有屋サンから聞かされた話だと、おれはとんでもねェ奴だ」
自らをムラに存在として良いと認めてくれた前代の最高神へ、並ならぬ執着心を持っていたが、抑えきれなくなり吐露した所拒絶されてしまう。彼の精神は壊れ、前代を食べてしまった──。
それ以来、山の女神である春木とは以前から仲は悪かったが更に悪化した。
他の神々から恐れられていたため、越久夜町の悩みの種だった。
──天津甕星は鎮められ眠りについた。
それだけが越久夜町に残った。
「おれは、最高神を食った犯罪者なんだ」
「好きだったんでしょ?」
「ハハ!恋バナか?そうだなぁ、前代の最高神は夜の神だったと聞いているな」
「聞いている?覚えてないんだ?」
「失われていくんだ。自分がなくなっていくのは、そういう事」
──天津甕星は、その神を好いていた。
「自分がなくなっていく。それほど怖いものはないよ」
「う、うん、あの」
「──今度さ、一緒にロケット花火ぶちかまそう?」
「は?!天津甕星も参加するの?」
「もちろん!」満面の笑みで肯定する少女に思考停止する。辰美は田舎の世間の狭さを思い知った。
誰が開催すると伝えたのだろう?
「じゃあ、またね。あんまり長居すると月の子に怒られちゃうから」
そう言うと彼女はパタパタと走っていった。
「タツミ。お前は天津甕星をどう思う?」
いつの間にか出現した太古の巫女が壁に寄りかかり、腕を組んでいた。
「うーむ。何とも」
「バカ学生」
「月世弥さん口悪くない?」
純真可憐な月世弥を知っていると、この変わり様に絶句するしかない。
「思い出してみな」
──天津甕星は山の女神─最高神に背きムラを支配しようとしたのだ。
──怒り、村を支配していた神官たちの崇拝対象であった女神へ戦いを挑んだ。
「山の女神に逆らった神さまってイメージかな」
「それは後付けだ。そもそもアイツは"天津甕星"じゃないし」
「本当の天津甕星は、香取にご隠居してるんだっけ」
「この町に天津甕星は勧請されてないんだよ。きっとアイツがいじったんだろう」




