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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
244/349

小さな村、おくやまち 3

「…どういう事?エベルムは」

「アルバエナワラ エベルムに直接聞いてみるといいよ」

「…」できないのを分かっていて、彼女は意地悪をしている。リネンはさらに辰美に含みのある視線を送った。


「そろそろ話した方が良いようだ」

「何をですか?」と、何も知らない緑は疑心を含んだ声音で問うた。

「越久夜町で、君のおじいさんに何があったのかを」

 二人は押し黙る。しかしリネンは世間話をするかのように、フラットに語り始めたのだ。


「この世界で私は東京からきた。東京というよりは、荒れ果てた瓦礫の山から──そういう事情になっている」

「…リネンさんも東京都からの移住者だったのですね」

「そんなもんさ。都合のいい"設定"になっていて良かったよ。その前はといえば、都会から逃げてきた。ある事件を起こしてね」

「事件とは?」

「それもおいおい話すよ」


「さて。星守一族は因縁があると知っているはずだ。それは町で有名な噂だからね」

 星守一族は常に犠牲になる。リネンは呟いた。

「しかし犠牲になったのは星守一族だけではない。幾つもの人々が犠牲になり、越久夜町を存続させてきた。例えば身近な例だと、君の祖父だ」

「…」


「町の魔法使いの界隈では星守と光路は仲が良いと有名だった」

 意味がわからないと半信半疑だった緑に緊張が走った。

「小林 光路(こうろ)。イズナ憑きの家系にあり、魔法使いでもあった。だろう?」

「ええ」


 二千十六年──緑の祖父にあたる小林 光路は当時、三十代だった。越久夜町を出て、首都近郊の大学に入り町と疎遠になりたかった。だがそんな経済的な余裕もなく、家業を継ぐしかなかった。


「二千十六年?アタシがいた時空も二千十六年だったはず」

「壊れたんだ。多くの時空が。その年からね」

 小林家は不遇な一族だった。村から憑きもの筋だと噂され、近所付き合いでさえままならぬ。

「はい、私の家は町では憑きもの筋だと嫌煙されていました…」

「そうだ。元来修験者の一族だったが、信仰の違う三ノ宮家に嵌められ、以来、憑きもの筋の家としてほぼ村八分になっていた──」

 緑の硬い表情が崩れようとしている。


 味方は忌み嫌われた星守家の長男・星守 奈木(なぎ)だけだった。二人は若いながらも町を出ようと誓い合い、それも叶わず、苦汁をすすっていた。

 そんな閉鎖的な町と家が嫌いだった。


 祖父・小林 光路は三十代の頃、何か強い理由があり、月世弥を一時的にこの世に復活させたかった。噂で聞く魂呼ばいを実施したかったのだ。それには遺骨や毛髪など、故人の一部が必須だと考えた。町役場から遺骨を盗もうとしたが、ないのを知った。ならば頭蓋骨だ────

 彼らが企てたことは知っている。だが、接点のないはずである二人はなぜ団結したのか。それを彼女は知らなかった。



「そんな、そんなはずはっ!」

 珍しく取り乱し、声を荒らげた。「三ノ宮家からは優しくしてもらって───」

「ああ、それはそうだろうね。禍根は小林 光路だと知っているんだから。だが、光路も容赦しなかったよ。越久夜町を破壊してしまったんだ」

 過ちを重ねていく光路を、星守とリネンで祖父を救おうとした──



「緑さん?!どこ行くのよ!」町役場からズカズカと離れていく緑とは反対に、リネンは至って冷静だった。

「ほっとくといい」

「どうして話したの?!」

「真実だからいいじゃないか」

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