小さな村、おくやまち 3
「…どういう事?エベルムは」
「アルバエナワラ エベルムに直接聞いてみるといいよ」
「…」できないのを分かっていて、彼女は意地悪をしている。リネンはさらに辰美に含みのある視線を送った。
「そろそろ話した方が良いようだ」
「何をですか?」と、何も知らない緑は疑心を含んだ声音で問うた。
「越久夜町で、君のおじいさんに何があったのかを」
二人は押し黙る。しかしリネンは世間話をするかのように、フラットに語り始めたのだ。
「この世界で私は東京からきた。東京というよりは、荒れ果てた瓦礫の山から──そういう事情になっている」
「…リネンさんも東京都からの移住者だったのですね」
「そんなもんさ。都合のいい"設定"になっていて良かったよ。その前はといえば、都会から逃げてきた。ある事件を起こしてね」
「事件とは?」
「それもおいおい話すよ」
「さて。星守一族は因縁があると知っているはずだ。それは町で有名な噂だからね」
星守一族は常に犠牲になる。リネンは呟いた。
「しかし犠牲になったのは星守一族だけではない。幾つもの人々が犠牲になり、越久夜町を存続させてきた。例えば身近な例だと、君の祖父だ」
「…」
「町の魔法使いの界隈では星守と光路は仲が良いと有名だった」
意味がわからないと半信半疑だった緑に緊張が走った。
「小林 光路。イズナ憑きの家系にあり、魔法使いでもあった。だろう?」
「ええ」
二千十六年──緑の祖父にあたる小林 光路は当時、三十代だった。越久夜町を出て、首都近郊の大学に入り町と疎遠になりたかった。だがそんな経済的な余裕もなく、家業を継ぐしかなかった。
「二千十六年?アタシがいた時空も二千十六年だったはず」
「壊れたんだ。多くの時空が。その年からね」
小林家は不遇な一族だった。村から憑きもの筋だと噂され、近所付き合いでさえままならぬ。
「はい、私の家は町では憑きもの筋だと嫌煙されていました…」
「そうだ。元来修験者の一族だったが、信仰の違う三ノ宮家に嵌められ、以来、憑きもの筋の家としてほぼ村八分になっていた──」
緑の硬い表情が崩れようとしている。
味方は忌み嫌われた星守家の長男・星守 奈木だけだった。二人は若いながらも町を出ようと誓い合い、それも叶わず、苦汁をすすっていた。
そんな閉鎖的な町と家が嫌いだった。
祖父・小林 光路は三十代の頃、何か強い理由があり、月世弥を一時的にこの世に復活させたかった。噂で聞く魂呼ばいを実施したかったのだ。それには遺骨や毛髪など、故人の一部が必須だと考えた。町役場から遺骨を盗もうとしたが、ないのを知った。ならば頭蓋骨だ────
彼らが企てたことは知っている。だが、接点のないはずである二人はなぜ団結したのか。それを彼女は知らなかった。
「そんな、そんなはずはっ!」
珍しく取り乱し、声を荒らげた。「三ノ宮家からは優しくしてもらって───」
「ああ、それはそうだろうね。禍根は小林 光路だと知っているんだから。だが、光路も容赦しなかったよ。越久夜町を破壊してしまったんだ」
過ちを重ねていく光路を、星守とリネンで祖父を救おうとした──
「緑さん?!どこ行くのよ!」町役場からズカズカと離れていく緑とは反対に、リネンは至って冷静だった。
「ほっとくといい」
「どうして話したの?!」
「真実だからいいじゃないか」




