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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
242/349

小さな村、おくやまち 1

 小林骨董店で辰美は休憩していた。竹虎に会って以来、自分は他人であり、今までの記憶が偽物だと。投げやりになって、タバコばかり吹かして、やけ酒を繰り返していた。

 都会なら更にヤケになって人生を破壊していただろうか。田舎にはヤンキーはいるが、人生を諦めた"悪い人"はいなかった。

 酒に酔って暴れた噂が緑まで届いてしまい、骨董店に連行される始末。

 水を飲まされ、緑から手作りの(かゆ)をもらった。


「私のようになって欲しくない」

 暗い過去を持つ彼女から、その言葉を聞いて辰美は虚脱した。二日酔いのだるさと心地悪さに椅子にもたれかかるしかなかった。


「大家さんに見守って欲しいとお願いされました。めんどくさい、いえ、お互いプライベートがあるので、どうしますか?」

「めんどくさいんじゃん…いいよ、無理しなくて…」

 相変わらず、我を行く緑に乾いた笑いがもれる。


「なら、私の情報収集につきあってください。近々、星守家に行きましょう。もう一度、タマヨリメの祠を見たいので」

「うん。見水も連れていきたいな」

「分かりました」

 冷房の効いた室内で気を休めていると、緑ははたと手を止めた。


「あと、辰美さん、聞きたい事があるのですが」

「ん?何〜?」


「八月はまだ終わっていませんよね?」


「…」

「辰美さんは気づいていましたから。何回、八月を過しました?」

 麦茶を冷凍庫から出して、彼女はポツリと零した。緑は生気のない黒目がちの双眸を辰美へ向けた。前とは一変し自力で気づき、問うてきたのだ。


「まだ一回」

 安堵と不安がない混ぜになり苦笑した。

「そうですか。なら、この現象…心当たりがあるのですか」

「春木さんが八月を続けさせているんだ」

「…そう。やはり、辰美さんが平生でないあたり、そうじゃないかと疑っていました」

 どろんと濁った目でどこか遠くを眺めている。考え事でもしているのだろうか?


「辰美さん、女神としての春木さんに会わせてください」

「私に言っても会えないよ、多分」

 辰美はただの人間であり、春木に気を許された特別扱いな存在ではないのだ。


「ならば、直談判しに行きます」

「いやー、聞く耳もたないと思うよ〜」

「良いです。私は春木さんに気に入られているようですから」

(じ、自分で言うんだ)

「では。今から行きましょう」

 麦茶の容器をそのままに彼女はガラス戸をスライドさせ、外に出てしまった。

(ええ〜困ったなぁ)

 乗り気にならないがしょうがなく腰をあげる。



 二人は着の身着のまま町役場へ向かい、人気のない路地を歩いていた。真昼間の、炎天下の道を歩く自虐的な人はいない。

「越久夜町は、現実から離れていっている」

「うん」

「このままでは、私たちの生活すら不確かになってしまうかもしれません。祖父が経験した結末さえも、分からぬままに終わるのは嫌なんです」

 無表情の、青白い顔で彼女は滔々と語る。

「この際祖父に会えるのならば、人ならざる者になってもいい」

「緑さん…本気なんだね」


 彼女は天の犬になるか迷っている。人間が人ならざる者となるとは、辰美にも想像がつかなかった。

 恨みつらみの悪鬼と化す、悲しい結末しか知らなかった。

 こちらはどう判断していいか分からず頷くしかできなかった。


「私は、人間でいたいや…天の犬にも、バケモノにもなりたくない。また普通に大学に通って、見水と───」


 二人で過ごしていると、リネンに出会う。駐車場に停車した車に積まれた荷物を整理していたのだろうか。しかし近づいてギョッとした。

 猟銃を担いで手に何か奇妙な生物をつらさげていた。


「やあ、久しぶりだね」

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