アトラック・シンシア・チー・ヌーと辰美ちゃん 6
「きっと、そっちにいる方が幸せだよ」
いきなり地響きが町を揺らした。ダムが決壊したのか?
「どういう事!?」
どこからかあふれ出した濁流に呑まれ、辰美は息ができずに流された。そのままどこかへ連れていかれる。
終着地はあの屋上だった。
ある日、蘇った記憶の中にあるボーイッシュな少女がいた。
「──私が白痴の霧瘴、干渉者の始祖になった"真の辰美"に見えるのだろう」
女子高生は、彼女は言う。
「真の、ホントの辰美…さんへ一体、自分自身は何をしたの?」と尋ねた。
「答えられない。自分は何も知らない。何も語ってはいけない。だが、この場は集合的無意識に近い場所だ。人の、人類のデータベースだ。だから私が出てきたんだ」
「貴方は──どこかで、会いましたか?」
「…。私を直視できていない以上、正体は明かせない。辰美、諦めてはいけないよ」
戸惑う辰美に、彼女はかつてあった東京の街並みを眺める。
久しぶりだった。この街並みがとても見たかった。涙が出そうなほど懐かしかった。
「人が栄えていた時代もあったのを、私が住んでいた世界を、人々は忘れない」
どことなく誰かに似ている少女が、静かに言う。
宇宙から飛来した人類の系譜がホモ・サピエンスまで続いている。
絶望や苦しみの星から落ちてきたと言われている。文明社会を築き、大量発生するのが特徴。何度も滅びかけるが何度でも繁栄する。
人類とはそんなものだ。
鬼神が振り返り、こちらを見た。
「ハッ!」
バスタオルをはぎ飛ばし、辰美はこれまでの会話や景色は夢だと悟った。
「鬼神さん…また話したいよ…」
この回は完結しました。ありがとうございます。




