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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
233/349

アトラック・シンシア・チー・ヌーと辰美ちゃん 5

 道中、路地でウロウロしている天津甕星(あまつみかぼし)とばったり出くわした。相も変わらず野良猫を探しているのだという。

 以前、月世弥の姿にはならないと言っていたが、彼は長髪の色白な少女の容姿に化けていた。

「何か知らない化けキツネに叱られちゃってさ〜。追いかけられてめんどくさかったんだよね」


 稲荷社の神使だろうか?天津甕星の姿が可視できたのがすごいのだが、追いかけるのも大概だ。

「月世弥の姿だと、幽霊に間違えられて見逃してくれるんだよ」

「幽霊っているの?」

「さーね」


 世にいう幽霊とやらは人ならざる者ではないのか?幽霊は人の延長なのか?それとも人ならざる者か?

 思考を巡らせていると、少女は笑顔で言った。

「辰美ちゃん、お菓子ちょうだい!」

「はぁ〜〜?」

 そうして辰美は自販機の甘いジュースを買う事になった。



「このコーラ、変な味するよ」

「スパイス入ってるからね」

「ふーん」

「アンタは呑気でいいよね」

「…。本当の天津甕星は、香取にご隠居してるんだ」

「え、それはみんな知ってるの?!」

「さあ。知らない方がいいんじゃないのお?」

「…」


 二人は寂れたバス停の待合室で、閑散とした町を眺めていた。


「呪われているようには見えないなー、越久夜町」

「呪われてるのはあの犬の方さ。アイツ、()()()()()()()()()()()()()()()()()

「え、どういう事?」

 しかし天津甕星はきちんと答えなかった。だからといって憤慨する程でもない。彼はそういう人だと、分かってきている。


「"月の子"にペナルティを課されてからはさ、だいぶ気も楽になったよ」

「皆まで言わないけどさ」

「お仕置されたんだよ」

 直訳的な言葉を吐いて、彼はジュースを飲んだ。


「アマツミカボシさんぁは倭文神がチー・ヌーだと分かりながらも、それを傍受してるンだ。エベルムが何者かも知ってる。この先どうなるかも予想がつく。でも介入はしない。できないけど、するつもりもない」

「うん」

「でもね、春木に伝えたい事がある」

「前も言ってたね」

「うん。伝えるまでは成仏できないよ」

「成仏って」

「辰美ちゃんも成仏できるといいね」

「いやいや…」否定した辰美に、天津甕星が追い打ちをかける。


「この町にはね、本来、佐賀島 辰美という人物は存在しないはずなンだよぅ」

「…酷いよ」

「オレたち、幽霊みたいなんだ」


 薄ら寂しい笑顔の天津甕星に、何も言い返せなかった。彼も存在しないはずな、いてはいけない人物なのだろうか。





 ────親子から菓子折りを受け取り、見送りながらミドリは内心苦笑する。被害妄想が過ぎた。

 悪い魔法使いが腹いせで割ったのかと、てっきり思っていたのだから。シャッターを閉めつつも自分の幼さを恥じる。

 夕暮れ時、田舎町にシャッターが立てる金属音が響いた。


「緑さん!」


 客足はほとんどない、さびれた商店街跡の数少ない店。先祖から骨董屋を営み、今現在彼女一人で店を営んでいる。骨董屋の機能を果たしていないけれどたまに遺品整理で蒐集品を引き取って欲しいと頼まれるのだ。その都度町から人口が減ったことを実感する。

 好景気は商店街やらがひしめき、映画館もあったそうだ。景気が崩れた今、残ったのは寂れ人気のない町並みだけ。

 ミドリは現在孤独の身だ。母は二十になる前に早くに亡くなり、父は蒸発してしまった。それからは近所の人達に助けられ、この歳までやってこられた。とはいえ失敗は数え切れないほどおかしたし、一人前とは程遠い状態だ。独り身ではあるけれども、遺された家庭用品や所蔵された大量の資料。それが骨董屋を営むミドリの私財になっている。


「緑さん」


「私は、"緑さん"じゃない」

 今居る越久夜町にいる小林 緑より、人間味のある人だった。

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