アトラック・シンシア・チー・ヌーと辰美ちゃん 4
哀れだ、と彼は憂う。
「わたくしと同じ異物で、ひとりぼっち」
「は?」
「どんな時空でも、貴方はどこまでもひとりぼっちだった。わたくしに似たあなたに秘密を教えてあげる。貴方には大事なモノが欠落しているの。人である、地球の生命である証が──」
「魂がないのです。貴方には」
チー・ヌーは指摘してくる。魂がないなんて人間として、生き物としてありえないのではないか?息苦しくなり、体が硬直した。
否定していた、辰己が人外であるという疑心がジワジワと蝕んできた。
「偽物の──"バケモノ"。この世に存在してはいけない、不自然な塊。そんな歪な紛い物が真正であるべき時空を救えるはずがないですよ」
「どっかいってよっ!」
取り乱した辰美に、彼はしまったと考え込む。
「すいません。嫉妬しちゃっていたかもしれませんわ。アノヒトに大層気に入られているようですから」
「あの人?だれよ」
「わたくしはアノヒトを何より"愛してくれる"存在だと思っているのです。嫌われた自らを必要としてくれた、話しかけてくれた─唯一の救い、そんな想いを抱いています。肉体的にも精神的にも"交わりたい"とも」
「だから」
「自分で考えなさい。わたくしが明かしたら、アノヒトに捨てられてしいますもの。それは何より怖く、恐ろしい。捨てられてしまったら自分はまた嫌われ者になる…嫌です」
「た、たしかに。その気持ちわかるかも…」
「こんな町、うんざりしていますの」
「シンシア…さん?は好きでこの町に来たわけじゃないんだ」
「ええ。アノヒトに受け入れてくれる土地があるとスカウトされました。半信半疑だったのですが…。まあ、結果、受け入れてもらえませんでした」
初めて声をかけてもらい、普通に接してくれた"アノヒト"に愛着がわいた。このヒトならば自らを大切にしてくれる。確信した。
美しい少年はうつうつとそう零した。
「大切にされているのでしょうか?」
「そーいうのってさ、難しいかもね…」
「ああ、すいません。身の上話をしてしまいました」
お恥ずかしい、と微笑みながら彼は言う。
「勧誘には失敗してしまいましたが、まあ、いいでしょう。では、また会いましょう」
空間が歪み、チー・ヌーの姿が埋没していく。あっという間にしわが寄った景色は元通りになり、辰美一人がその場に残された。
(何か、色々事情があるんだなぁ…)




