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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
(1) 瞑瞑裡の鼠《パラレルワールド再分岐前夜》
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瞑瞑裡の鼠 「リネンさん」

後に加筆修正します。

「夜廻隊ってやつさ。野犬がうろうろしてるんで、たまーに観光客がやられるんだ。それに害獣駆除でこれが必要になる。町内会での取り組みで女衆もこんな物騒なもんを持たなきゃいけなくなったんだ。あたしゃマタギほどの腕前ではないけれどね。」

 猟銃を見せつけて彼女はいう。


「ひ、ひとでしたよね…?」

「あれは、うーん。きっとジャンキーどもがトリップしてなにかしようとしてたんだよ。山奥は何かと変なヤツらが集まってくるからさ。」

「薬物依存症の人たちには見えませんでしたよっ!」


「いやいや、だったらなんなのさ。」そうだ、彼女は魔法や魑魅魍魎を信じていない。魔法使いが不思議を起こしても彼女の眼には何も映らない。

 ヒロミがいる世界とは永遠に交わらないのだ。それが普通の人。常識の世界だ。


 ―――

 来家(らいか) リネン。細身にボーイッシュな短髪。危うげな三白眼をしているが、案外優しい人だ。彼女は医者としては役不足であるけれど、人としては申し分ない。出会ったのはこの森に迷ってしまい、ツキノワグマに襲われそうになった時だ。


 まるで仙女の如く町外れで診療所を開いている。

 長らく診察を行っていないごちゃごちゃの診察室で簡単な処置を施してもらう。擦り傷程度でよかったものだ。


「お金、もらうよ。」

「はい。ありがとうございます。」

「仕事終わりならタクシーでも頼めばよかったのに。まさか、歩いてきたの?」

「自転車を盗まれてしまって。」

「ハア、なんて言っていいやら…。」

 大げさに額へ手をあて彼女はサジを投げつけた。何度か会話をした仲だけれど、いつの間にやら頼りないおバカだと認識されてしまったみたいである。


 居心地の悪さに室内を見渡していると心は少しづつ現実感を受け入れる。

 石油ストーブの独特な臭いとむんとする熱さは冬の風物詩である。結露の起きた窓ガラスからあのゾンビたちはうかがえなかった。悲痛な叫びも飢えた唸りもしないにべもない真冬の光景であった。もしかすると白昼夢でも見ていたのか…。


「まるでこの世の地獄をみたよーな顔だね。」

 そんなにも青ざめ、そぞろな顔をしていたのか、リネンはそう言った。

「あの人たちは…」

「うん。」 

「生気がありませんでした。なにか、足りない…不気味な様相で…」

 口を半開きに金壺眼(かなつぼまなこ)。死人に近い、不吉な顏。


「魂。そう。魂が宿っていなかった。」

 うんうんと頷いていたリネンが「んん?」と眉をひそめた。-この子はたまに意味の分からないことを言う。


「きっと奪われた…。」 

「命を奪われたやつらが襲い掛かってきたって?」

 推理をする探偵のように真剣な様相に、やぶ医者が小馬鹿にした笑みを浮かべた。


「ゾンビ映画のみすぎじゃないか?」

「死んでも生きているのがゾンビですが、生きているのに死んでいるんです。彼らは。」

「ん?はあ…。なるほど。」

「いや、死んでいるんです。実際。肉体と魂は消失していても思念は残っている…」

「まるで幽霊だね。」

「そう。あれは幽霊になるはずだった残留物が肉体に閉じ込められている…魂を捕食されたことにより、外へ出る媒介が消失してしまったのです。だから外ではなく内へと没入していく…。」


「あんたのスピリチュアルな世界を否定する気はないが、いつまでもそれに浸っていては大人になれないよ。ヒロミ。」


 普通の人なら口を揃えてそう物申すであろう。それを否定する事実もありえないのも存じている。彼女の世界はまた一つ異なる場所にある。


 ヒロミは曖昧に頷いて「ありゃりゃまだまだ子供ですかね〜…」とおちゃらけてみせた。

「少しは落ち着いた?」

 どうやら女医はこちらが「正常な思考」になるまで待っていてくれたみたいだ。そんなに錯乱しているように見えたのだろうか?


「おかげさまで…。」 

「家まで送るよ。盗難届もついでにだすかい?」


 軽自動車のキー片手に彼女は悪戯な笑みを浮かべる。警察署は隣町にあったはずだ。

「ほ、ほんとに申し訳ないですぅ…」


 車に乗り込むや芳香剤と生ぬるい暖房がお出迎えしてくれる。リネンは慣れた手つきでエンジンをかけ、でこぼこの道を発車した。

 後ろを見やる勇気はさすがにない。

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