倭文神 6
「で、寝込みを襲おうとしたわけ?」
「そうだよ」
「麗羅さんが居る内は無理だね」
「この前のように貸してくれればいい」
「接続っての?」
「そう。まあ、凡人は簡単に神々の世界へはアクセスできないんだろうけどね。私は違う」
神々の世界とは、実際の天文学的な宇宙とは異なり、言わば世界の裏側である。人界や人ならざる者の居場所──異界と、ベクトルの違う異次元にある太虚とは、また違う世界の舞台裏になるという。
それを知れたのは自身の異能のおかげだ。人間なら通常ならば人界しか知りえない。人ならざる者も異界だけしか知らないで生涯を終える者だっている。
この異能は素晴らしいのだ。
欠点があるとするならば、あくまで意識や五感だけで、現実世界ではいけない事である。加えて生前より自らの異能が弱体化しているため、接続時間は長くはない。
となると異能を存分に発揮できるのは。
「力を使えるのはタツミ、お前を半分以上のっとる時のみ」
「何が言いたいのよ?」
「この前のように、私が運良く助けると思うな。体を貸せ」
「はあ」
(こう見ると普通の女の人だ)
神々の声を聞き民に伝えていたシャーマン・月世弥。
三十代くらいの彼女は──バケモノであり何万年も昔に生きた縄文人とはいえ──そこら辺にいる女性と何ら変わらなかった。
仕草や顔立ちも、背丈も、なんら現代人と変わりない。指は五本あり、頭は一つ。人外たちの規格外の外見とは異なり、変哲もない女性だった。
か弱い人間であった彼女も道をはずれてしまって、今この状況にある。
「何だよ、ジロジロと」
「いや、なんでもない…」
「今度犬人間に、シンシアさんについて聞いてみよう」
「あの犬に?悪趣味だな」
「なんで?」
「アイツらは揃って悪趣味だよ。あいつは嫌な奴だよ。二度と話したくない」
(何したんだろ…)
心底嫌そうにする月世弥に、辰美は不思議がった。




