倭文神 4
これまでネーハたちに口を酸っぱくして注意されてきた。
干渉者とは末恐ろしい者だというように。
「きっと周りからは傍若無人な侵略者だと言われているのでしょう。干渉者は地球侵略する本来の宇宙生命体ではなく今の人間の次の人類。おぞましいエイリアンとはわけが違いますのよ?」
「アナタも地球人なの!?」
「ええ、今は宇宙人になりましたが…元は地球にいた、タコに限りなく似た生命体から進化した…軟体生物のような思念体なのです。まあ、タコといっても今いる普通のタコではなくて、とある絶対神が生み出したミーム汚染的なタコですが」
「でもタコなんだ。エイリアンじゃん」
「タコと、決めた人がいるからです。最初の最初に」
含みのある笑みを浮かべながら、彼は言う。
しかしタコに似た生き物というのは滑稽である。まるで過去に想像されていた火星人みたいではないか。
「干渉者は決して恐ろしい生き物ではないのです」
「はあ…説明ありがとう」
「…あら、ツレないですわね。とにもかくにも、わたくしに会いたければ、星守邸にきてください」
「なんで?そこに住んでいるの?」
「"わたくし"がいるからです」
意味ありげな口調なチー・ヌーはこちらに手を差し伸べてきた。
「会って欲しいのです。そしてあの子とは仲良くしてもらいたいのです。わたくしのために、アナタのためにも」
それが握手を求めているのだと、気づけなかった。
「夕方に星守邸に来てください。彼が待っていますから」
逢魔が時。しょうがなく辰美は星守邸へ出向いた。宇宙人と交わした約束をすっぽかすのも怖いのだ。
人気のない道を歩いていると、門前に、あの童子が待っていた。
(あの子って、倭文神さん?)
「約束したのであろう?アトラックと」
「う、うん」
「ならば仕方あるまい。ついてくるがよい」
スタスタと彼は先を歩いていく。慌てて着いていくと、月世弥が祀られていた祠の前に二人はやってきた。
「女神の精神状態は安定してきている。要らぬ心配だったかもしれぬな。この前はすまなかった」
「いいよ。春木さん、気にしてなさそうだったもん」
「ああ、この時空は適当なヤツらだらけじゃのう」
「…この時空」
「天道 春木は前代から人間世界や森羅万象を受け継いで動かしているだけで、神様としての経験値は少なくてのう。天津甕星が越久夜町に来た時は成長不良をおこした幼子だったのじゃ。神霊としての人に触れる仕事をしておらぬし、人間世界を知らない。あの神は未熟者じゃ」
星守邸をしみじみと眺めながら彼は言う。
「有屋 鳥子も裏方だったから同様。町を支えるのは吾輩くらいしかおらぬのだ」
(越久夜町が好きなんだなぁ…)
複雑な心境で夕暮れに沈む邸宅を共に見ていると、倭文神は祠についた砂利を払った。慣れた手つきだ。
「…吾輩は、この祠を何百年と管理してきた。それにともない恨みや様々な感情が沸き起こり、それは吾輩を神から異なる下級の者へ成り下がらせたのじゃ」
「月世弥さんを」
「いいや、タマヨリメではなく…天津甕星だ。穢れは溜まり、神性は薄れてきている、このままでは神の成り下がりになってしまう」
「うん…」
「建葉槌命、天羽雷命、天羽雷雄命、天破豆知命、止与波豆知命、栲幡千々姫命、天棚機姫命──倭文織りを司る神─と、この国では言われておる。糸をつむぎ、時空を修復する。吾輩は本来そのような役割を担う神であった」
「…」
「──だがのう。吾輩は食われてしまったのじゃ」
倭文神を「しとりがみ」と読んでいたのですが、「しとりのかみ」だったのですね…




