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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
ツギハギの町と憐憫たるスナッチャー編
223/349

倭文神(しとりのかみ) 1

「あの二人に相談してみたらどう?」

 冗談交じりに山の女神が提案する。馬鹿げている。しかし魔法にかけられたように、体は『小林骨董店』へ向かっていた。

「そ、そうだ!緑さんに話さなきゃ…!」


 気がつけばその気になって、商店街へ走り出していた。この事実は見水や緑へ言わなければならない。


「あっ」

 アスファルト舗装がされていない細道に見慣れない生物がいた。いや、町には居てはいけない生き物だ。

 オレンジ色と黒の縞模様がゆったりと移動している。

 太虚で見たアムールトラに特徴が似ている。悠々自適に歩いているのをみつけ、咄嗟に電信柱の影に身を隠す。食われたら一溜りもないと、息を殺した。


「ライラの匂いがしたンだがなぁ?どこだ?」

(ライラさん?)

 渋めの男がどこかで話している。麗羅を知っている人物のようだ。


「居るんだロォ?ライラぁ!」

(早くっ!居なくなって!てか、男の人助けて)

「見つけた。ソコに居たか」

(ヒッ!)


「辰美?どこ〜?」

 どこかで見水 衣舞の呼ぶ声がする。幻聴かもしれない。

「辰美ー?」

「ハァッ…」

 息を吐き、砂利にへたり込んだ。奇妙な薄ら寒さは消え失せ、暑い空気が充満している。

 現実に戻ってきた。虎の気配はしない。救われたのだ。

「あ!何してるのよ、辰美」

「虎がいたの!」

「虎ぁ?何言ってんの?越久夜町に動物園はないよ」

 見水が素っ頓狂な事を言うなと、ケラケラ笑う。

「怖かったんだから!」

「私さあ、これから緑さん家に行くんだけど辰美もどう?」

 何て事もなかったように彼女は言う。

「あ、うん。行かなきゃいけなかったんだ」

「じゃあ一緒にいこう!」



「うっ、ま、待って見水」

「え?なに?」

「心の準備が!」

 あれから初めて小林骨董店を訪れる。緑から感情をあまり感じられず常に平然としているイメージがあるが、ギクシャクはしているだろう。


「緑さーん!あたし、衣舞だよ〜」

「あ!こんにゃろ!」

「ああ、見水さん…」

 二人は鉢合わせして声を出さずに凝視してしまった。辰美は乾いた舌を必死に動かす。

「あ、えっと」

「…。この前は感情的になってしまい申し訳ありませんでした」

「う、ううん」

「なに?喧嘩でもした?」

 見水が状況を読み込めず二人の間に割って入る。

「もう大丈夫っ!あ、えっと何しにきたんだっけ」

「辰美が虎にあって騒いでたんだよ」

「虎?この田舎町に?」

「人ならざる者なんじゃないかな、その虎」

 そうして二人が雑談しているのを眺めていると、先程の非現実的な記憶が嘘みたいに思えてくる。


(でも良かった…緑さんと、ちょっと仲直りできたかも?)


 友好関係が修復不可能にならなくて済んだ事に安心しながらも、自分の情けなさと緑への執着に再三気づいた。

(私…何でこんなに緑さんに、嫌われたくないんだろう…?)


『全国的に猛暑になる見込みです。埼玉県の北部は四十度に達する予報が出ています。くれぐれも水分補給を忘れず、適切に冷房を使い熱中症を──』

 ラジオから有り得ない予報が流れている。八月は暑かったが、二回目はさらに酷暑になっている気がした。

 冷たい麦茶を飲みながら、まったりしていると春木が脳裏をよぎる。


「そうだ。八月が繰り返されてるんだった!」

「は?」

「何を言っているのですか。八月は始まったばかりですよ」

「そうだよ辰美。これから夏真っ盛りだよ」

 二人はさも当然のように言ってのけた。

「…。そうだよね」

 土用の丑の日の話題をしているのを横目に、自分だけがなぜ気づけたのだと自問自答する。


 ──人ならざる者が見えたから?

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