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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
(1) 瞑瞑裡の鼠《パラレルワールド再分岐前夜》
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瞑瞑裡の鼠 「ゾンビ」

 咄嗟に飛び出た言葉をヒロミは恨めしく思う。乾燥した風が皮膚を痛めつける。暗闇で木々がざわめきをあげ風が唸る。得体の知れない圧迫感に身を縮め、早く道路に出ないかとそればかり考えていた。一人で歩くというのは寂しくて恐ろしい。


 こうした夜闇は魑魅魍魎が出てくるという。

 勿論ヒロミの眼は化けタヌキやキツネを可視できる程聡明でなかった。一般世間の霊感持ちよりも鈍感な部類に入る。


 お化けだって一度も目にしたことがない。魔法使いの居る世界を存じている、加えて家に伝わる「夢札」を非現実的な魔法を駆使する人達へ売る。非現実に携わるはずなのに、不思議体験をしたことがなかった。今日聞いた悪い魔法使いの話も実態がなくてフワフワしている。

 今世、人は摩訶不思議な事柄を信じていない。

 ヒロミも一端の現代人だ。


 それでもこの不気味な空間にいると人でない何かがいると勘ぐってしまう。

 人が居る領域じゃない。非科学的な理由ではなく獣らの本領が発揮される場なのだ。人はお呼びじゃない。


「…!」 

 獣の気配がした。熊か?ヒロミは息を潜め、ひっそりと気配のする方へ目をやった。


 夜目が聞くほど器用じゃあない。必死に熊に出くわした時の対処法を模索する。死んだフリ?少林拳?静かに退却する?どちみち気弱な性故に実行できそうにはなかった。心臓が早鐘をうち、五感が敏感になる。(そんな…!)

 囲まれている―獣は一匹ではなかったというわけだ。それもたくさん。野犬だろうか?都市部から捨てられた犬が野生化してしまい問題になっているとテレビでやっていた。


 どうでもいいことばかりが頭をよぎり、ヒロミは逃げ道がないことを最終的に悟った。じりじりと輪が狭まっていくのを不思議と感ずる。生命の危機に瀕した際の馬鹿力か、獣たちの薮をかするわずかな音でさえこちらへ伝わってくるのである。


 死ぬのは怖い、ヒロミは挙動不審になりながらも逃げ道を探した。


(逃げ場がないよおっ!)

 完全に包囲されていた。犬?猿かも?こんなに統率力がある野生動物は社会性がないと―


 夜目にぬっ現れたのは変哲もない初老の男性だった。  


「よかった―」

 ホッとしたつかの間救世主の様子がおかしいことに気づく。 

 腑抜けたと言えばいいか?理性というものが感じられないのだ。ボケてしまった近所の老人が脳裏に浮かぶ。

 施設から逃げ出してしまったのだろうか?


「ま、迷って…」 


 呻きを上げながら老人は近づいてくる。生理的に訴える恐怖に従って、距離を取り後ずさる。絶対に触れてはいけない―終わってしまう。

 来た道を帰ろう。そう思って背後に「獣」の気配があることを失念していた。しまった!


 囲まれているのである。暗がりからぬぼっと無表情の人間が数人現れる、距離が取り返しがつかないほど狭ばっていた。


「あ…あ…どうしよう!」


 町の住人であろう―人間が生気のない様相でのろったく近づいてくる。見た目はごく普通であり、老若男女、野良仕事の格好をしている者や寝巻きの者もいる。ご丁寧にゾンビみたいな呻きを上げ獲物へ手を伸ばしてきた。

 異常だ。


「いやっ!こないで!」咄嗟にバッグを振り回しゾンビの腕を振り払う。脳裏でゾンビ映画の冒頭が再生される。こういう時はなすすべもなく餌食になってしまうのだ。

 間抜けに悲鳴をあげ、あっつけない最期を迎える…はずだった。


「あんたら、これがなにかわかんだろ?だったら下がりな。」

 凛とした女性の声と共に銃声が轟いろいた、それにまた悲鳴をあげへたり込む。映画の撮影に迷い込んでしまったのだろうか?


 点になろうとしていた輪を散らしたのは物騒な物だった。「あなたは…!」

 ライフル銃(祖父が一度見せてくれた)をまさに映画の登場人物の如く構えたさまは、アクション系で飛躍する果敢な女戦士を彷彿させた。威嚇行為をものともしないゾンビに女性は声を張り上げる。


「これが最後だっ!撃つよ!」

「えっ!」 


 鼓膜をつんざく爆音に耳を塞ぎ、四方八方に散らされるゾンビどもを唖然と見送る。銃声に反応するとなるとゾンビというよりは野生動物?狐につままれていたのか?


 一方颯爽と現れたヒーローは人集りが失せたのを確認するや、猟銃を片手に彼女はヒロミを無理やり立たせる。確かに危機一髪だったとはいえ人を“鉄砲”で散らせるなんて。

 この町は随分バイオレンスな土地柄なんではないか?


「あんた、何しに来た?」

 化粧っ気のない女性が冷徹な口調で、ねめつけてきた。


 衣服も髪型も乱れたヒロミを一瞥し彼女は

「ここら辺は危険なんだ。しかも女ひとりで夜道を歩いてると来た。自殺願望でもあるの?」

「あ、あの……。ごめんなさい~…。」

 張り詰めた顔を途端にくしゃりと歪め、飛びついてきた弱者に嫌がりもせずからからわらった。

「なんだいピンピンしてるじゃないか!」

「リネンさあん!」


 彼女はヒロミと顔見知りだった。運良くなんて、都合のいい言葉がピッタリな登場に思わず涙する。神様がいるのだとしたら、今まさにこの時。さっきまでの不気味さは消え失せ、安堵感に包まれる。


「なんだい、もしかしてまた何かトラブルに遭ってんの?」

「リネンさんこそ、どうして?」まさかヒーローの如く誰かの危機を嗅ぎつけ、やって来た訳じゃあないだろう。

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