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山の女神と幻像の巫女 《再開》9

 起点の間というのは未知数のテクノロジーが集結した『司令室』である。その一部であるパネルを操作しようとした天津甕星は、凄まじい力で、春木に押さえつけられた。

 彼は死に物狂いに山の女神に噛み付くが、ペナルティが発動したのか、急に動けなくなってしまった。

 存在を縛られ苦しむ悪神に、山の女神はパネルをロックしてしまったのだ。


「やはり、私たちは争いを生むだけだわ。…もう。…これをいじる必要もないはずだった。でもね、滅びるのよ─このまま。私も、町も。そうね。月世弥を目覚めさせたら一緒に宇宙にでも行ってしまおうかしら。二人だけのハネムーンよ。フフッ、胸が躍るわ」

 その場に似つかわしくない爽やかな笑顔で、皆は押し黙る。


 山の女神は町のデータを削除しようとしていたのだ。


「認めねえぞ。オレは!目を覚ますのはお前の方だ!」

 吠えたてる天津甕星に、春木は意外そうに言う。


「あら、貴方が一番破滅への衝動を持っていそうなのに」

「前代の全てを無碍にするのかよ。この町が終わるんならなァ、前代の築き上げてきたものも消えるんだ。馬鹿か?」

「バカは貴方。前代を食べたくせに何を言うの。第一、貴方は月世弥をバカにしていたじゃない。月世弥の何を分かった気になっているの?」

「天道 春木。お前は星守一族を作ったな」

「ええ、なぜ今その話を?」

「お前は忘れたのか?越久夜町を苦しめ続けるバケモノと化した月世弥の影響で異常が起き続ける状況を。お前と天道家は応急処置として星守一族を作り出した事も」


 ──疫病や春木自身の脆弱、そして町に何らかの穴あきが生まれだし人が消えたり、発狂しだした。

 ただ神々や天道家は月世弥を忘れているために、天津甕星が原因だと考えた。

 生贄が必要だ。厄を背負い込む存在が必要だった。

 春木は月世弥をもう一度甦らせたかった。彼女ならまた越久夜町を担ってくれる。それにまた再び平和な日々に戻りたかった。


「そうだろ?」

「何を世迷い言を。過去を捏造しないでくれる?」

 冷たい薄ら笑いの山の女神と神威ある偉大な星を、辰美は見つめた。何もできない。二人の間に割って入ることもできない。

「…ふん、言わせておけばァ」

 春木が高級感のあるハイヒールで踏みにじる。

「前代がいれば、この町はここまで堕ちなかったわ。───消えなさい」

 いとも容易く転送された天津甕星に、辰美は駆け寄った。跡形もなくなった悪神に彼女は言う。


「町のどこかに転送しただけよ。本当は大気圏外に放ってしまいたいけど」

「越久夜町を消しちゃうの?!」


「ええ、もう必要ないもの。月世弥さえ居ればいいんだから。私は人間に近づきすぎてしまった。純粋な神のように、力も使えない。しかしまだ最高神の権限は所有している。私は、まだ町を終わらせられる」

 権限を利用し、町のプログラム詳細を表示するパネルを表示した。


「やめて!」体が自由に動かない。辰美は天の犬と化した左手がわずかに動かせるのに気づいた。


(─もし、この手で春木さんを八つ裂きにすれば…)

 恐ろしい考えが過ぎり、自分を嫌悪する。

(どうしたらいいの!)


「祭壇の中に月世弥の遺骨が隠されているの。そして天津甕星の神器も。倭文神が教えてくれた。──神霊が行う魂呼ばいには、死人の魂と体が必要だと」


 祭壇が開き、月世弥の遺骨が出てくる。

「さあ、私と二人で永遠なる幸福の世界で」

 頭蓋骨を置くと、祭壇が光り輝き神聖なる血で満たされる。


 まるでプロジェクターで照らされた画像のような、荒い画質の月世弥だった。

 神域の起点で月世弥が復元された──

 彼女は皆を一瞥し、恭しく跪き、敬意を表した。




「──この時を待っておりました。畏れ多くもかしこき最高神さま」

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