山の女神と幻像の巫女 《再開》4
落ち合う事になり、仕方なく指定された場所へ向かう。天道家の屋敷地の前には有屋 鳥子とネーハが待機していた。二人はこちらがやってきたのを確認すると大仰な門──長屋門の扉を開いた。
まるで重要文化財に指定された武家屋敷みたいだ。
「一応、警護も任されている身なのよ。日替わりだけども」
「神さまたちが日替わりで?」
意外と人らしい事をしていると感心していると、秘書は暗い面持ちで首を横に振った。
「倭文神とだけ。他の神は怖がってやらないわ」
「え」
緑がやってきて談話は終わる。釈然としないまま、二人は初めて越久夜町を牛耳る天道家を訪問する。
「椿の庭だけには行かないで。精神がやられるわ」
「庭…?そんな奇っ怪な庭なんですか?」
不思議そうな緑を横に有屋は頷いた。
「山の女神は気に入っているから、必ず見せたがるでしょうね」
天道家は大きな屋敷に住んでおり、敷地は越久夜間山にある。神社より少し横にある、ひっそりとした場所にあるため、それほど目立たなかった。
もしも春木に誘われなければ、知らなかっただろう。
妙にどんよりとした雰囲気が漂っているため、知っていても近寄らないかもしれない。
建物構造は書院造りで、豪華絢爛とまではいかないが相当広く感じる。越久夜町にある一般的な家屋より歴史があるようだ。
しばらくして家から春木が出てくる。どうやら支度が整ったみたいだ。
「いらっしゃい、さ、入って」
言われるまま玄関に入ると驚愕の光景が広がっていた。
緑は家に招かれてすぐ、その状態を見てえずき、嘔吐しそうになった。
「吐くなら外でして」と有屋鳥子に促され、外へ走っていった。
辰美もその光景にドン引きし、やっぱ人ならざる者とは相容れないと内心独り言ちた。
しかし有屋はそれが普通だと思っており、意外と何も感じていない様子。ネーハも「うわ、おかしいけど私も正直人間の事よく分からないからなぁ…」と小さく呟いた。
その光景とは──
表すなら魑魅魍魎だった。
"数十人の家族"と言うよりは…幻影だった。それらは曖昧に存在しており、騒がしく廊下を早送りで移動していた。まるで雑踏が屋敷内に存在しているかのようだ。
神である春木が人間として住んでいる。それがこの惨状であった。
「ああ、私が作った家族なの。びっくりさせて申し訳ないわね」
ひどくざわめく廊下をみやり、恥じらいながら嬉しそうに言う。
「大切な家族だとは思っているのだけど…」
天道一族は春木の設定の雑さで顔がボヤッと認識できないようにされているらしい。
周りからはぞんざいに割り当てられた顔面が認識されているが、辰美からしたら雑面を被っているみたいに見えた。
気味が悪い。この場から一刻も立ち去りたい。
「まずはお客様をもてなさないとね」
「ついてきなさい」
皆を誘うと、スタスタと廊下を歩いていった。
「庭ね」
その背を眺めながら、有屋が困ったように呟く。
「庭って」
「一年中椿が咲き乱れて、越久夜町の地主、有識者たちからは密かに化け物屋敷と古来から呼ばれている庭よ」
「ナニソレ?あ、緑さん大丈夫?」
「ええ、なんとか…」心做しかゲッソリした緑を気遣いながら靴を脱ぎ、家に上がる。
「ここは妖怪屋敷ですか?」




