山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》16
「天道家が嘘物だと知っているから、固執している様がさらに可哀想に思えるよ」
「えっ、何で…」
彼はいう。なぜ知っているかといえば三ノ宮一族は、タヌキ妖獣人の家系でありつつ、中世からは魔法使いの家系だからだ。
獣人類の頃から続いてるからこそ、町を知り尽くしている貴重な生き証人である。タヌキの妖獣人の血筋を濃く引いているせいか、または"タヌキは人を化かす"力が得意で、人を化かす人ならざる者に過敏。人を化かすことに特化しているので、嘘や幻を見破りやすい。それゆえ天道一族から人ならざる者の気配がするのに気づいたのだ。
「天道 春木はこの世にいていないんだよ」
「妖獣人って何なの?」
「妖力を持った人に限りなく似た獣(に似た生命体)。人と動物の特徴を併せ持つ外見になったり、獣そのものになれたりする。妖狐や人虎、人狼など世間から認識されている種族もいる、そんな者さ」
「は、はぁ…」
「これ以上、町の歴史を調べるのはやめて欲しい。お願いだ」
そう言われ、二人は困惑する。
「調べなければならない理由があるんです。無理です」
イズナ使いは反論するが、三ノ宮が首を横に振る。
「だからだ」と念を押される。
「あの道化にしてやられてしまう。再び越久夜町は混沌と化してしまう。それだけは避けたい」
「道化って…誰ですか?」
聞いても、答えない。歯がゆい。
「じゃあ、檀家さんの家に行かなきゃいけないから。失礼するよ。急ですまないね」
そうしてスイカも食べず帰ってしまった。
「めんどくさい奴ですね。相変わらず」
緑が雑に吐き捨て、麦茶を飲み干した。
「辰美さん、まさかやめようとはしていませんよね?」
「う、うん」気圧されて頷くしかなかった。無表情のくせに何故か気迫がある。
(ああ…困ったわあ…)




