山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》15
「だがね。タマヨリメはどこから降ってわいてきたか分からない神格の神だ。何故よりによってタマヨリメなのかも検討がつかない。それはいいとして。辰美さん、悪神・天津甕星を封じるんだ。君が責任を取りなさい」
「ええっ!?」
「悪い魔法使いを成敗できただろうか?」
(そんな無茶ぶりっ…!)
追い詰められた。まるで、いや、責められているのだろう。耐えられなかった。
「月世弥が!月世弥が自分を探して欲しいって!」
再び、約束を破ってしまった。(もうっ!どうにでもなれ!)
「ツクヨミ?」首を傾げる三ノ宮を、無関心な様子で緑は付け足した。
「古代にいた女性シャーマンの事ですよ」
鳩が豆鉄砲を食らったように彼はあからさまにたじろいだ。
「…。それを、春木さんに話していないよね?」
三ノ宮は声を潜め告げると、これは秘密にして欲しいと迫ってきた。
秘密。嫌いだ。
「その女性シャーマンは機密情報なんだ。ツクヨミを皆に話してはいけないよ。この町の大多数が知らない事実もある。それを明るみにしてはいけない場合もある。加えて再び天津甕星も明るみにでたら、町はどうなるか分からない。お年寄りたちが騒ぐかもしれない。あの神は認識されてはいけないのだから」
特別に、辰美と緑に越久夜町のツクヨミに関する話をすると彼は言った。
天道家とかの古代シャーマンは密接に関わっている。
ヒエラルキーの頂点にいる天道家は、神道にとても似ているが修験道や様々なものが混じった独特な信仰生活を送っている──三ノ宮一族や妙順もそれを不気味に思っている。ただ天道一族は古代から続く神官の家系だ。
そのシャーマンが先祖ともされている。天道家は望郷するように、神憑り神事や巫女に固執してきた。
「天道 春木もきっとそのシャーマンに会いたいのだろうね」
三ノ宮はそれを憐れむように、静かに言い放った。




