表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
198/349

山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》10

 車を停め、ダム湖側にある荒れ野につく。今日も荒れ野には誰一人いない。有屋 鳥子が持参した虫除けスプレーをかけ、三人で湿地帯をゆく。夏の暑さと蝉の声だけがこの場を支配している。

 爽やかな自然を満喫できるかと言えばそうではない。どこか淀んでいた。

 山の女神である春木はどこか、この淀んだ空気に苦しげだった。


「あっ」突如足をもつれさせながら、湿原に膝をつく。よろけた山の女神に二人は驚いた。

 青白い顔をし、息を切らし胸を抑える様に気遣うも、有屋に助けを遮られる。

「山の女神はもはや穢れと神聖を区別できない状態にあるの。カオスの化身のような辰美さんが先輩に触れたら危ないわ」

「か、カオスの化身って…?!」

「有屋…失礼でしょう。私は老い先短いのよ」

 そういうとなんとか体勢を整え、歩き出した彼女の後についていく。

(いつも、この空気に苦しみながらお参りしてるのかな)


 やがて円墳にたどり着いた。円墳は崩れかけ、原型は無い。その瓦礫へカスミソウをお供えし、手を合わせた。

 大人たちに倣い、黙祷する。その時だけは静かな時間が流れ、さわさわと荒れ野の草木がなびく。


「ありがとう。皆で来れて良かったわ」

「先輩…今回でやめにしましょうよ。()()()が酷いし、神霊が訪れる場所ではありません」

 しかし彼女は首を縦には振らなかった。

「…月世弥の言動、生きていた事を完全に覚えてはいるのに、最期を覚えてないなんて。私がいけないのよ」

「あれは不慮の事故・事件で…」

「──私が関わったのではないかしら?なんて…歳を重ねてボケてしまったのかしらね。困っちゃうわ」

 苦笑して、忘れられた円墳を眺める。


「月世弥をすぐに消えてしまう些細な存在、人類の一部だと思っていたの。私は神であの子は人で。だけれど、あれほど悲劇的な結末を迎えるとは予想できたのか、自らはなぜ手を差し伸べなかったのだろう…とか、色々考えてしまうから」

 だからこうしてたまに花を手向けに来ている。祈っては、この世の中に月世弥がいるのを夢想する。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
お読みいただきありがとうございます。

こちらもポチッとよろしくおねがいします♪


小説家になろう 勝手にランキング


ツギクルバナー


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ