山の女神と幻像の巫女 《まぼろし》8
「でっかい古墳しか知らなかったや」、と感心する傍ら山の女神の秘書がやれやれとジェスチャーする。
越久夜町の地に人が住み始めたのは縄文時代からであり、遺跡は少ないが土地の歴史は長い。関東地方は縄文時代、かなり人口が多かった。この町にも人はいた。
ただ縄文時代の出土遺物が少ないのが不思議がられている。
「中世から寺に関わる一族が、古墳時代より豪族が牛耳ってる、排他的な印象があるでしょ」
豪族として天道家、星守家がある。寺院は三ノ宮家が強い。
「天道一族や三ノ宮一族が宝物としてこれまでの遺物を保管している。だから町役場も簡単に調査できないのよ」
小林さんはご存知だとは思うけど、とつけたした。
埴輪、鏡──遺物が記された本を解き明かしながら、緑は勾玉に注目する。
「有屋さん、勾玉は?」
「あ、ああ…」歯切れの悪い返事をする。
勾玉が遺跡調査後からすぐに紛失したのは、町役場でも内密にされていた。
「勾玉は月世弥の、タマヨリメの御神体なのよ。八尺瓊勾玉もあるでしょう。神格化する際に勾玉を選んだのでしょうね。かつては星守一族が所有していた。それに"私たちも"勾玉が必要だった」
有屋は勾玉は越久夜間山にある宝物庫にひっそり管理されていると明かした。
加えて遺骨も内密に神々が隠している。だが、墳墓から未発見だった頭蓋骨が盗まれてしまったのだ。
なぜ、未発見なのに盗まれたとわかったのか。
時空のゆらぎが爆増した時期に何かが置き換わった。周りは存じていないが、有屋は感知していた。自らの能力の賜物だと言う。
「私は船。太陽を運ぶ、ただ一つの入れ物」
全部とまではいかないが時空の異変を感知できるのだという。
「証拠に頭蓋骨が星守一族の手に渡ったのを存じている。倭文神が内密に見せてくれた。意図は分からないが、それを先輩には話していないわ。頭蓋骨を渡してしまえばまた同じ過ちを繰り返すだろうから」
誤ちとは?と詮索したが、彼女は答えない。
「ただあの円墳にタマヨリメが祀られているという情報は倭文神の受け売りなんだけれど」
倭文神は何かを隠蔽している。それも、何か重大な過去を。
(倭文神、ねえ…)
そうこうしているうちに携帯に電話がかかってきて、有屋は了承する。そうこうしているうちに携帯に電話がかかってきて、有屋は了承する。
「誰から?」
訊ねると、彼女は気まずいと顔を曇らせた。
「春木よ」
「えっ、仕事の要件なら帰りますっ」
そう言った辰美に、隣にいたイズナ使いは食い下がった。
「何の用ですか?」
「…円墳に行きたいそうなの」